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③俺が王子様のためにできること。
厳重なセキュリティーに守られた高級マンションを出てから、なだらかな斜面を歩くこと約15分。
一軒の大きい豪邸が見えてくる。
立派な門構えがある広い庭に囲まれたその家は、俺が今まで見たことのないほど綺麗なものだった。
月夜の家。
きっとものすごい大きな家なんだろうことは想像していたけれど、想像するのと見るのとではかなり違う。
ただでさえ緊張しているのに、目の前にある大きな屋敷を見ると、俺の心臓は大きな音を立てて鼓動する。
ゴックン。
口の中にたまっている唾を喉の奥へと飲み込む。
恐る恐る、震える指先でチャイムを押した。
「はい」
インターホンから聞こえたのは女性のものだった。
だけど早苗 さんの声じゃない。
きびきびした張りのある声だった。
きっと屋敷で働く家政婦さんだ。
「あ……えっと。篠崎 亜瑠兎 です」
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