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④俺が王子様のためにできること。

 名前に詰まったのは、花音と名乗るべきか、はたまた亜瑠兎だと名乗るべきかどうかを考えたからだ。  だけど嘉門さんはすべて知っている。  結局、俺は自分の名前を名乗ることにした。 「はい、篠崎様でございますね。お待ちしておりました」  女性はそう言うと、間もなくして玄関から姿を現した。  俺を出迎えてくれたのは、さっきインターホンで話をしていた女性だろう。  俺よりも頭ふたつ分ほど背の低い、白髪まじりの女性だった。  その女性は手際よく蝶番(ちょうつがい)を外すと門を開けた。  「どうぞこちらでお待ちください」  女性に促されるまま、俺は広い屋敷をなぞる縁側をぐるりと歩き、客間だろうかローテーブルと座布団しかない10畳ほどのだだっ広い和室に通された。

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