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⑧俺が王子様のためにできること。
だけどもうこれ以上、何も聞きたくない。
嘉門さんの言葉は傷口に塩を塗ってくるようなものだ。
俺の心情を察してくれたのかはわからない。
嘉門さんはゆっくり頷いた。
「……聞くところに寄れば、妹さんは心に決めた男性がいて、そして君は欲しいものがあって妹さんの身代わりになることを決意したとか……」
――ああ、そうだった。
はじめは花音が嫌がるから、俺は物につられて花音の身代わりになることを決めたんだ。
ノートパソコンにしようかとか、タブレットにしようか。
父さんが買ってくれるものを心待ちにして――。
それが今はどうだろう。
今の今までそのことを忘れているなんて……。
嘉門さんはことごとく、俺がどれだけ月夜を想っているのかを自覚させてくる。
月夜と別れるって、もう決まっているのに……。
嘉門さんはとても残酷だ。
「はい」
俺が頷くと――。
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