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④『大嫌い』は大好きの裏返し。
俺は込み上げてくる涙を引っ込めるため、頬を軽く叩いた。
涙が溜まった目を腕で乱暴に擦る。
キィ……。
どうにか歪む視界を元に戻して玄関のドアを開けた。
重い足取りでダイニングキッチンに続く廊下を進む。
「あ、おかえり亜瑠兎。どこに行っていたの?」
月夜がキッチンからしゃもじを持って顔を覗かせた。
どうやら彼は食事の用意をしていたらしい。
「あ、ちょっと散歩に……今朝の日差しがすごく心地好かったから外に出てみたんだ」
なんて苦しい言い訳だろう。
日差しが心地好かっただって?
よく言うよ。
いつもなら月夜が用意してくれる朝食の美味しそうな匂いで起きるくらい寝坊助なクセに。
その俺が散歩なんて洒落 たこと、できるわけがない。
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