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⑧『大嫌い』は大好きの裏返し。

 室内に虚しく響き渡るその声が、なぜか他人のように聞こえた。 「――――」  ダイニングテーブルを挟んで向かい合う月夜と俺。  しばらくの沈黙が漂う。  月夜はコンロの火を止め、俺と向かい合った。  常に優しい笑みを向けていた月夜の姿はそこにはもうない。  月夜のきつく閉ざしたその唇。  俺の前には鋭い眼光を放っている彼がいるばかりだった。  そんな月夜の表情に怖じ気づく俺は喉を鳴らしそうになるのをなんとか(こら)え、なんでもない素振りを装って口を開いた。 「俺、嘉門さんから、金をもらったんだ」  ……ズキ。  ひと言。  喉を絞って声を出すたびに、心臓が大きく震える。

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