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⑦『大嫌い』は大好きの裏返し。

 俺はぶら下がっている手を力いっぱい握りしめた。 「うん?」  尋ねてくる月夜はいまだキッチンと向かい合っている。  鍋の中からはあたたかな湯気が立ち上り、本来ならば俺の鼻孔をくすぐる。  だけど月夜との別れを決意している俺の胃はムカムカしていて気持ちが悪い。  俺は吐き気を覚えながら、口を開く。 「……俺……嘉門さんと会ってきた……」 「……なっ」  俺がそう言った直後、月夜の手が大きく震えた。  振り向いた表情はどこか強張っているようにも見える。  こんな月夜の顔を見るのは初めてだ。  俺は内心ドキドキしながらも緊張でカラカラになった喉の奥から声を絞り出す。 「月夜、俺と別れてくれ」  果たして告げたこれは俺の声だろうか。

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