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⑨『大嫌い』は大好きの裏返し。
「そもそも、俺が花音 と入れ変わった理由は、父さんが俺の欲しい物を買ってくれるって言ったからなんだ。許婚の件を無事、後腐れなく上手く断られたら、父さんに買ってもらえる約束だった」
――はじめはね、そうだった。
「だけどその必要、なくなったんだ」
――あなたに恋をしたから。
月夜さえいてくれたら、何もいらない。
俺はいつだって月夜の側にいたい。
いつの日か、そう思っていった――。
だけど……。
「さっき嘉門さんから金をもらった」
――嘘だよ。
封筒、渡されたけど貰わなかった。
「俺が嘉門さんに、『あんたの息子に抱かれた。スキャンダルになるのが嫌なら金をよこせ』って言ったらさ、すぐに金を用意してくれたよ。嘉門さん、月夜が大事なんだな。おかげで俺の目的が達成できたよ。そういうことだからさあ、俺はこれ以上、お前と一緒にいる意味がないんだよ。月夜」
――違う。
俺はいつだってあなたといたい。
俺は痛む胸を堪えながら、自分の気持ちと裏腹なことを話す。
唇に薄ら笑いを浮かべながら……。
『月夜に嫌われる』
そう思っただけで、心臓がえぐられるようだ。
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