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③ふたたびやって来ました月夜の実家。
振り向けば、そこにはワイン色の着物を着た、清楚な女性がいた。
「早苗 さん……」
彼女は、そう月夜のお母さんだ。
早苗さんは買い物に行っていたのだろう。
大きなカゴバッグを持っていた。
俺の母さんと同じくらいの年齢だと思うのに、柔らかな笑顔を浮かべる早苗さんはとても綺麗で気品がある。
俺は早苗さんにペコリと頭を下げた。
「まあ、亜瑠兎ちゃん……以前会った時よりも、ずっと可愛らしくなったわねぇ」
にこにこ微笑む早苗さん。
……えっと……?
俺、どう反応すればいいんだろう……。
「――――」
男の俺にとって、『可愛い』は褒め言葉じゃないんだけどなあ。
でも早苗さんは悪気があって言ってるわけでもなさそうだし……。
「――はあ、どうも……って!」
ちょっと待て!!
早苗さん。
俺のこと、『亜瑠兎ちゃん』って言わなかったか?
それってそれって、俺が男だって知っているってことだよな?
――ということは、だ。
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