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④ふたたびやって来ました月夜の実家。
きっと嘉門さんか月夜が俺の正体を明かしたに違いない。
早苗さんの言葉に、俺はびっくりして二度見してしまった。
だけど、あれ?
俺は花音 と偽っていた。
早苗さんたちを騙していた。
どうして怒らないんだ?
おかしなことに、彼女は今、紅を差した赤い唇を手で隠し、微笑んでいる。
……意味がわからない。
「あの……」
「月夜なら中にいるわ。さあさあ、上がってちょうだい」
俺が口を開くと、早苗さんは俺の背中を押した。
えっ?
……俺、中に入ってもいいの?
……なんて思っている間にも、早苗さんはカゴバッグから家の鍵を取り出そうとしている。
「あ、持ちます」
鍵が取り出しにくそうだったからバッグを早苗さんの手から受け取った。
中身は今日一日分の食料が入っているらしい。
持ってみるとなかなか重い。
これを女性ひとりで持つのはとても大変だ。
「あら……ありがとう」
ふふっと微笑む早苗さんの表情は見ていてとても和む。
「――――」
早苗さんって不思議だ。
一緒にいるだけで、心が穏やかになっていく。
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