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⑥ふたたびやって来ました月夜の実家。
「さあ、中に入って。おいしいお菓子を用意するわね」
玄関のドアを開けると、早苗さんは明るい声で俺に話しかけてくれた。
だけど俺は全然そういう気分じゃない。
だって俺、ずっと花音だって偽っていた。
早苗さんを騙していたんだ。
優しくされればされる分、後ろめたい気持ちが膨らんでいく。
「あの、俺……」
罪悪感が俺を襲う。
早苗さんの顔、見られない。
ギュッ。
下を向いて桃色のワンピースの裾を握った。
「あの、怒らないんですか? 俺、男で……。早苗さんたちをずっと騙していた……」
不安でどうしようもなくて、声はすごく小さくなる。
早苗さんはさっき、たしかに俺のことを、『亜瑠兎』と言った。
俺が男だってバレてる。
当然ながら男同士で結婚なんてできるわけもなく、ましてや葉桜 には跡継 ぎがいる。
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