283 / 305
⑦ふたたびやって来ました月夜の実家。
世間体もあるし――。
こんないびつな関係は誰も望まない。
それなのに、早苗さんは俺に笑いかけ、あたたかい言葉を掛けてくれた。
ギュッと握りしめている花音のワンピース。
見るも無惨な皺だらけだ。
帰ったら花音にこっぴどく怒られるだろう。
緊張で喉がカラカラ。
だけど早苗さんは違った。
「ええ、知ってるわ」
深く頷いてみせた。
「だったら!! 俺へのこの対応はあまりにも……」
おかしい。
早苗さんはいったい何を考えているのだろう。
さっぱりわからない。
俺の正体を知っていてもなお、早苗さんがなぜこんなにも親切にしてくれるのかがわからない。
口ごもれば、早苗さんが口を開いた。
「わたしが亜瑠兎ちゃんに笑いかけることがおかしい?」
「はい」
早苗さんの言葉に、俺はコクンと頷いた。
そんな俺に、早苗さんは、「う~ん」と少し考えるようにひとつ唸って、また話しはじめた。
ともだちにシェアしよう!