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第2話
放課後、三年二組の教室を出た九十九の前に現れた傷だらけの少年。華奢な体を少しでも大きく見せるようと、両手をポケットに入れ太々しい態度で仁王立ちしている。そんな少年と九十九を見て周囲の生徒がザワついている。
だが、周囲の視線を余所に九十九は少年の頭上に拳を振り落とした。
ゴツンッ!
少年は、いてー!と頭を抱えその場にしゃがみ込む。
「何すんだよ!」
次の瞬間立ち上がり、距離を詰めて再び九十九を睨んできた。
九十九は少年の肩を二度突くと、
「村上九十九さん、だろ?」
さん付けを強調し、少年の顔を至近距離で捉える。途端、少年は白い肌を薄っすら赤く染め口を尖らせた。
「村上……九十九……さん……」
少年は顔を背けゴニョゴニョと言う。
「オレと、タイマンしろ」
背けていた顔を九十九に向けるとまた、ギラついた目で九十九を睨んだ。
その言葉に九十九もさすがに目を見開き動きが止まった。二人のやり取りに足を止め眺めている生徒たちも、
「あの一年坊主、村上にタイマン挑んでるぞ!」
「頭大丈夫か?あのガキ!」
その声に少年の足元に目を落とす。上履きのラインが赤だった。間違いなく、それは昨日入学式を終えたばかりの一年生であることを物語っている。
九十九も耳を疑った。この中学の頭に君臨してから一年。喧嘩で一度も負けたことはなく、そんな自分に、ここ最近タイマンを申し込む輩はいなかった。
隣にいた佐島ゲンが少年の前に立ちはだかる。
「おいコラ!ガキが!」
少年より更に頭一つ背が高く、ガタイも一回りは違うであろう佐島ゲンに肩を押され、その勢いで少年は尻もちをつく。
「やめろ、ゲン」
九十九は佐島を止めた。九十九は尻もちをついたままでいる少年の前にしゃがみ込み、視線を合わせた。
「おめーな……礼儀ってもん知らねーのか?」
顎を掴み無理矢理顔を上げさせると九十九は、赤い前髪の奥の目を光らせ少年を睨んだ。それでも少年は怯える事は一切なく、相変わらず挑発的な目を向けている。
「まず、名を名乗れ。あと、オレはおめーより二つも年上だ、敬語使え」
わかるか、敬語?もう一度念押しし、掴んでいる顎を揺すった。掴んでいる顎を解放してやると、少年は顔を背けボソボソと口を開いた。
「一年三組……シライシセッシュウ……」
「セッシュウ…?どういう字書くんだ?」
珍しい名前に九十九は興味が湧く。
「白い石……空から降る雪に柊……」
「白石雪柊……」
白い肌のその少年に似合う、とても綺麗な名前だと思った。
「綺麗な名前だな……」
思わず口から出ていた。
九十九の言葉に少年は驚いた顔を浮かべ、一気に顔を赤らめた。
居たたまれなくなった雪柊は勢い良く立ち上がり、
「タイマン!やってくれるのかよ!くれねーのかよ!」
まだ、膝を折っている九十九を見下ろした。
「して下さい……だろ」
今度は平手で頭を引っ張たいた。ペチンッといい音がし、雪柊は頭を摩る。
「して……下さい……」
「やらねー」
雪柊の声に被せるように言う。
「な……!」
「おまえな、いきなりボスキャラに挑むのかよ?」
雪柊を見下ろし、わざと呆れた声を降らす。
「ゲームだって、レベル上げてラスボスに挑むもんだろーよ」
「じゃあ、どーしたらタイマンしてくれるんだよ⁉︎……ですか……」
取って付けたような敬語を使い、九十九を見上げる。
「二年の頭張ってる幸田とタイマンやって、勝てたら勝負してやるよ」
「幸田……?」
「おい、九十九!こんなチビに、さすがに幸田は無理だぜ!」
佐島が九十九の言葉にギョッとしている。
「じゃあ、オレとのタイマンの話はなしだ。どうするよ?雪柊?」
雪柊の頭をガシガシと荒っぽく掻き回す。雪柊は九十九の腕を振り払い、
「約束っすよ!」
そう言って踵を返し三年の廊下を走り去って行った。
「先月まで、ランドセル背負ってたガキだぜ?」
「まぁ、幸田も決して弱くはねえ。厳しいだろうな」
「でもよ……」
佐島はすでに雪柊のいない廊下に目を向けると、
「なんか、昔の九十九に似てるな、あのガキ」
いかつい顔に笑みを貼り付け、佐島は言った。
「どこがだよ!」
「おめーも一年坊主の時、あんな目してたぜ?今にも人殺しそーな目してて、正直オレはビビったの覚えてる」
佐島に言われる前に、すでに九十九は雪柊を昔の自分と重ねていたのは佐島には言わないでおこうと思った。
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