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甘える
これは自分が見てもいい顔なのだろうか。
古くからの友人とか家族とか、恋人とか。
そういった相手じゃないと資格がない気がして、心臓がうるさいくらいに早鐘を打つ。居心地がわるい。
「……まあ、なんにせよ、生まれもった才能みたいなもんだと思ったから言っただけだ。俺にはそういうの、全くねえからな。この見た目だし」
笑いながら、どこか悲しげに自嘲する彼に、頭で理解するより先に口が出た。
「いえ……そこまで言ってもらえるほどの器ではないですよ。むしろ自分は、いつか課長みたいな人になりたいとずっと思っていました。もうこの際なので言ってしまいますけど、憧れなんです、あなたは」
言うと、課長は驚いたように瞠目して、それから一瞬間をあけたかと思えば、ぶはっと声をあげて破顔した。
「ふ、おまえ、こんなところで何を真面目に褒め合ってんだか……っ」
「へっ、あ……っすみません、つぎはシラフのときに、必ずっ」
「そういう問題じゃないから」
我慢できないように、課長はくつくつと喉の奥で押しころすように笑う。
この人は、俺ら部下の思っている以上に自己評価が低いのかもしれないと思って、わりと真面目に言ったつもりなんだけどな。
ひとしきり笑ったあと、彼は『はあー……』と深いため息をついて、生理的に涙の溜めこんだ目でこちらを見やった。
「じゃあ俺も、この際だから、もう少し変なことを言ってもいいか……?」
「? どうぞ」
「さっき……、羨ましいなと、思ってた」
「えっ、何が、ですかね……?」
「猫カフェみたいで」
「ね、猫カフェっ?」
課長の口から“猫カフェ”なんて言葉を聞く日がくるとは……。
思わぬワードに、なんて返すべきかと脳内をフル回転させていると、俺の肩に頭を乗せた課長が、なぜか恥ずかしそうに視線を外す。
「お前の周り、潰れたやつらが集まってただろう、自然と。居心地よさそうで、さ。……おれも、そこに」
「……?」
「そこに、お前の近くに、行きたいって思った……。気持ちよさそうに見えたっつーか……」
「……」
「そしたら、飲みすぎた。悪い……おれ、今、やっぱり変なこと言ってるよな」
「や……、そんなことは」
……正直、あるよ。だいぶ変なこと言っちゃってるよ、課長。
そう、喉のすぐそこまで出かかった言葉をなんとか飲みこむ。
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