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やくそく

 しかもこれはなんというか、もしかしなくても課長、猫目線で話してる……?  よくも悪くも同僚や後輩に安全地帯とみなされた俺のことが羨ましい話ではなくて、俺のそばに猫みたいに群がっていた彼らが、羨ましい……と。  ええ、なんでだ……?  この人、実はめちゃくちゃ甘えん坊なのか?  普段あんな、凶悪犯みたいな恐い顔してて?  仕事のデキる、かっこいい大人の男だとばかり思っていたのに? 「お前、行ったことあるか? 猫カフェ……」 「いえ……、ないですね」 「いいぞ、猫カフェは……。可愛い生き物を見ると癒される」 「あは、確かに、そうですね。今度、一緒に行きます?」  なんちゃって、と続ける前に、 「え、いいのか……?」  キラキラとした期待の眼差しに、さすがに少し狼狽えた。  いや、だめだ。動揺するな。  相手はただの酔っぱらいだ。  ここまで普段と違うなら、もしかしたら酩酊中は記憶に残らないタイプなのかもしれない。  いつもみたいに、他の人にするのと同じように、ここは適当にあしらっておいたほうがいい気がする。 「もちろんですよ。俺も、猫普通に好きですし」 「……ん、絶対だぞ」 「はい、課長こそ、忘れないでくださいね」  できるだけ優しい声で言うと、もたれかかった俺の肩に、それこそ本当に猫みたいにするりと擦りよってきて、でもあまりにも控えめなそれに心臓がきゅうっとした。 「ああ、忘れない……。うれしい」  可愛い生き物を見ると癒される、なんて彼は言っていたけれど、今に限って、俺にとってそれはあんただ。  まあシラフのときでこんな気持ちになるのは有り得ないし、俺も相当酔ってるなと思う。  猫カフェと課長なんてイメージが全く結びつかないし。  あんな小さくて柔らかくて可愛い小動物にほのぼのと囲まれているところなんて、全然想像できないし。  でもそれはそれで見てみたいかも。  好奇心がむずりと浮いて、この会話も、課長のこんなだらしない姿も、自分以外の誰も知らないのが共犯意識みたいなものを生み出して。  独占欲のような泥の塊が、胸にじわりと滲んだ気がした。

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