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その後
──……
広いオフィスに鳴る電話の音。
ファックスの複合機の受信音。
色んな人の話し声。
パソコンのタイピング音。
土日もすぎて、月曜日。
……どころか、今日は金曜日だ。
課長は、あきらかに、あからさまに俺を避けていた。
それに気付いたのは火曜日あたり。
俺が受け持つ得意先の件で相談しに行ったとき、会話じたいは円滑に進んだものの、一度も目を合わせてくれなかったことに違和感を覚えた。
そして翌日の水曜日、部長に提出する資料の最終確認をしてもらったときも、同じように目が合うことはなく。
いつも以上に必要最低限の業務連絡しかしてくれず、俺がなにか言う前に会話を切り上げて『もう戻っていい』とそっけなく突き放された。
それから昨日の木曜日は、部長と談笑している課長の背後にたまたま俺がいて、彼がふり返った拍子に腕がぶつかった。
そのときの課長の反応は、間違いなくおかしかった。
俺の顔を見るなりぶっきらぼうに謝り、視線どころか顔を背けて、軽く当たった程度の腕を庇うようにぎゅっと掴んでいた。
まるで自分の殻に閉じこもる──または、俺から早く逃げたいみたいに。
彼のその振る舞いに、自分でも不可解なくらいにショックを受けた。
最初は意味が分からず、なにか嫌われるようなことをしたのだろうか、と休憩室で頭を抱えたほどだ。
けれどいくら考えても、思いいたったのは先週あった飲み会でのことだけだった。
だってそれ以外に理由がない。
社外で課長と会ったわけでもないし、仕事で大きなミスをしたわけでもない。
不穏な寂しさと疑問を胸にかかえたまま迎えた、金曜日。
あの飲み会からちょうど一週間だ。
今日はとくに課長と話す機会もなく、そろそろ一日が終わろうとしている。
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