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そっけない
「もう、行っちゃうんですか?」
「……なんだ? お前も何か愚痴でもあるのか」
「あ、いえ……。愚痴、と言いますか、ご相談というか、悩みと言いますか……」
「珍しく歯切れが悪いな」
「少し、お時間いただいてもよろしいですか? 場所はここで構いませんので」
「……手短に、な」
手短、か……。
何だかやっぱり、俺への対応に少しトゲがあるような気がする。
避けられてると思っていたけど、いざ話しかければ一応普通に答えてはくれる……が、さっきの同期への言葉とは違い、ちょっと素っ気ない雰囲気は拭えない。
課長はベンチに戻り、俺も全く中身の減らない缶コーヒーを手にしたまま、その隣に遠慮がちに腰かける。
緊張して、少し胃がモヤモヤして気分が悪くなった。
だけどこのまま、理由が分からないままずっと避けられたり、冷たい態度で跳ね返されるのはいやだし、単純に落ち込む。
俺は開いた膝の間で両手でコーヒーを持ち、缶の上部に視線を落として呟いた。
「あの、気持ち悪いのを承知で言います。最近……、避けてませんか、俺のこと」
建前も、オブラートに包むこともなくストレートに言った瞬間、顔をあげて課長と目を合わせる。
彼は瞠目して、いつもは鋭い目をただただ丸くしていた。
「……は?」
「どうしてですか。先週の飲み会のせいでしょうか」
「…………なんの、話だ。つまらんことを考えるな」
「つまらなくなんて、ないです……。俺、本当にずっとそれが気になって、考えても全然、埒があかなくて」
「……お前も、疲れているんじゃないのか。残業になる前にもう帰れ」
「ちがっ、すみません、話を聞いてくださいっ、俺、なにか失礼をしたのなら謝ります。だから……っ」
「触るな……っ!」
課長のまとう空気がピリついている。
怒ったように立ちあがった彼の腕を、引き止めるために思わず掴んでしまい、次の瞬間には思いっきり振り払われた。
「……っ、」
「……っあ……、すまない、今のは俺が悪い」
「……いえ、そんなこと」
「今の、だけじゃない……。全部俺が悪いんだ。お前にはなんの落ち度もないから、気にするな」
課長は、自分から振り払った手をハッとしたように見つめて、拳をぎゅっと握ったまま、身体の横におろす。
どうしてあなたが、あなたのほうが、そんなつらそうな表情をするんだろうか。
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