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第14話
大丈夫、なんてことはなかった。緊張していたのか不安を感じでいたのか、つい飲みすぎてしまったようだ。床に座る壮太は同じく床に座っている理人にもたれて「えへへ」と上機嫌に笑っている。そんな壮太を見ながらにこにこ笑う葵と、この場にいることがとても気まずい理人の二人だけがこの空間で意識がある状態だ。向かい側のソファに座る葵とは目を合わすこともできない。
「飲みすぎだろ……」
はぁ、と理人は大きなため息をついた。
「いつもこうなの?」
「いやー、滅多にないんですけどね」
壮太なりに節度は守っているし、意識を飛ばすような失態を犯すのは理人が知る限り数回だけだ。よほど緊張していたんだろうな、と理人はため息をつく。
「付き合ってるの?」
「え?いや、違いますよ。ただの友人です」
「ふぅん。どこまでの関係?」
ずばずば聞くなぁ、と理人は困ってしまった。ここでの会話はどうせ壮太は覚えていないだろうから答えてもいいのだけれど、できることならその手の話題ははぐらかしたい。
「葵さんと壮太は、どこで出会ったんですか?やっぱり薬局ですか?」
尋ねると、違うよ、と葵は酒を口に運び、にこ、と笑った。
「ハッテン場」
「お、おう?!壮太、お前行くのまだ止めてなかったのか!」
「えー?だって寂しかったんだもん。理人、最近相手してくれないし」
「ちょっ!ちが、おま、」
はぐらかした話題がブーメランのように返ってきてしまった。葵は、へえ、とにこにこしながら二人のやりとりを眺めている。
「やっぱりそういう仲なんだ」
「否定はしないです」
壮太に迫られ、懇願され、仕方なくそういうことを行った、というのは何度かある。そんなことしたって何の解決にもならないのはきっと壮太もわかっていたはずなのに。
「壮太は節操ないね」
「こいつ、以前付き合ってた人がいて」
壮太の個人的な話をするのは気が引けたが、このまま壮太が節操なしと認定されるのは嫌だった。
「壮太、依存体質で、その人にかなり依存してたみたいで」
壮太は聞いているのかいないのか、無言で酒をちびちび飲んでいる。
「重すぎるのが嫌だったんでしょうね、愛想つかされて、フラれたっぽいです」
「ふぅん。まあ、壮太が飲んでる薬見てたらなんとなくわかるよ」
ああ、そうか、この人は壮太行きつけの薬局の薬剤師だった。薬事情なんてとっくの昔に把握しているのだろう。勿論、色々な個人情報も。
「安心して、君が心配するようなことはしないから。」
それにね、と不安げな顔をする理人を安心させるように葵は優しく微笑んだ。
「そういう系の子、好みなんだ。……だからね、」
ソファから立ち上がり、移動して葵は壮太の隣に腰を下ろした。
「妬けちゃうなぁ、壮太」
「え?」
壮太が葵の方を向いたのと同時だった。葵が壮太にキスをしたのだ。突然の葵の行動に理人は固まってしまい動けなかった。理人がいる目の前で、この人は一体何をしているのか、とという思いで頭がいっぱいだった。
「あおい、さん……りひと、いる」
「だから?もう我慢できないなー」
「ふぁっ、ん……」
まさか友人の情事をこんな間近で見ることになるなんて思いもしなかった。理人は何も見てない聞いていない、と言わんばかりにひたすたテーブルに視線を落とし、酒を口に運ぶ。部屋に響く水音と壮太の甘い声を聞きながら、二人は付き合ってないんだよな?と己の中で再確認する。嫌がるならやめさせるところだが、壮太はまんざらでもなさそうだし、どうすれば正解なのか理人にはわからない。止めないにしても、居心地は悪い。
「壮太、オレとお友達、どっちに犯されたい?」
「え?……葵さんは、だめ」
「なんでだよっ!」
すかさず理人が突っ込むが、だめ、だめ、と壮太はふるふると首を振る。
「いいよ、じゃあ、壮太が犯されるの見てる」
「はい?!」
何故そのような展開になっているのか。理人は目をぱちくりさせて、壮太と葵を交互に見る。葵はにっこりと笑い、とん、と理人の肩を叩いた。
「理人くん、壮太が待ってるよ?」
「え、えええー……」
何故こんなところで他人に見られながら友人と性行為をしなければならないのか。だけど断れる雰囲気でもない。このどうしようもない状況に、理人はただただ頭を抱えた。
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