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第17話
「オレ、もう絶対酒飲まない」
朝に目覚めて発した壮太の第一声がそれであった。
結局あの後夜中の二時頃まで性行為に明け暮れて、結果、足腰立たなくなってしまい、理人におんぶされて自分の部屋まで移動してもらった。
泊まっていいとは言ってくれたが、隣が家なのでそこは断った。
ちなみに葵は土曜日も仕事らしいのでおそらくもう出社している。
昨日の今日で平気なのが凄い所だ。
「ぜーったい飲まない、うん」
「そのセリフ聞き飽きた」
「う……」
理人の言葉が胸に突き刺さる。
やらかした後はいつも同じようなことを言って、一時は飲まないのだけれど、しばらくするとまた同じことを繰り返してしまう。
それで理人に何度迷惑をかけてしまったか数えきれない。
「まあでも、今回はオレもいい思いしたし、責めたりはしないよ」
二人に攻められるのはいつもより興奮した。
いい思いをしたのは壮太も同じで、でもそれがなんだか恥ずかしくなて、壮太はふいっとそっぽを向いた。
「お前がハッスルしすぎるから腰が痛いんだけど」
「壮太がエロすぎんだよ!」
はぁ、と理人はため息をついた。
「で?葵さんにはいつ告白すんの?」
「……無理」
壮太はしょんぼりしてそう言った。
壮太が葵を好きであることは明確なのに、気持ちを伝えようとしない。
体だけの関係がズルズルと続くなんてよくないのは壮太自身、分かっていた。
が、以前の恋がトラウマになり、一歩を踏み出せないでいた。
「重いって、言われたんだ」
「前の彼氏に?」
「そう」
年上の男と付き合っていた。
出会いはハッテン場で、向こうから声をかけてきて。
意気投合して、何度か会ううちに付き合うことになった。
今の壮太からは想像できないかもしれないが、しっかり順を追っての交際だった。
楽しい日々だった。
だけど、壮太が鬱になったとき、それは変わった。
「オレが鬱期に入ったときに、依存しまくったのが悪かったんだ」
毎日執拗に電話をかけてしまった。
向こうが仕事で忙しいのに、会いたいと連呼してしまった。
会えないとなると泣いて懇願した。
「鬱を理解するのって、難しいもんな」
理人は苦笑して言う。
その通りだった。
壮太は鬱期を抜け出せず、ただただ助けを求めて恋人にすがって。
それが度を越えているということに気付いた時には既に遅かったのだ。
「ごめん、重いの無理なんだって言われて、オレ、重いんだなーって」
「それが突っかかってるってことか」
きっとまた、同じことを繰り返す。
また同じ理由で振られたら、今度こそ立ち直れないだろう。
だから一歩を踏み出せないのだ。
「葵さんのことは、多分好きなんだと思う。でも、オレだけかもしれない」
「そうかな?案外両想いかもしれないじゃん?」
「もしそうだとしても、なんか、勇気が出ない」
勇気を出すにはまだ時間が必要かもしれない。
両想いなら最高に幸せなのに、そんなに都合よくいかないことを壮太は理解している。
「あー、腰痛い。理人、湿布とって」
「はいはい」
理人のように壮太を理解してくれたらどれだけ嬉しいだろう。
葵と恋人同士になれたらどれだけ幸せなのだろう。毎日繰り返される日常の中に葵の笑顔があるだけで、どれだけ幸せになれるだろう。
そんな、「いいな」ばかりが心の中に溜まっていき、そのせいだろうか、なんだかとても切なくなった。
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