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第18話
一週間が経った頃、問題が起きた。
スマホのアラームを止め、体を起こそうとしても起き上がれなかった。
この一週間、実は鬱になるような兆候はあり、じわじわと波が押し寄せているのは感じていたけれど、どうやら本格的に鬱の波が到来してしまったらしい。
このまま布団の中で一日を過ごしたい。
何も考えたくない。
が、壮太の成績を考えると講義には絶対に出た方がいいし、今日は運よく病院の日だ。
まずは病院に行き、薬をもらおう。
そのまま講義に出て、帰ったら何もせずに寝よう。
そのように一日をプランニングし、壮太は身支度を整えた。
家を出て病院へ向かう足取りはいつもより重かった。
本当は病院にさえ行きたくない。
病院に行ってこのもやもやとした薄暗い思いがなくなればいいのだけれど、なかなかそう簡単にはいかないものだ。
主治医にも、上手く付き合っていこうね、と言われている。
「……葵さん、いるかな」
病院が何件か入った医療モールの横に建つ薬局の前でふいに壮太は足を止めた。
受付のお姉さんの姿は見えるけれど、薬剤師の姿はなかなか見えない。
見えても、葵ではない。
奥で仕事をしているのだろうか、それとも今日は休みなのだろうか。
「……って、阿呆だろ、オレ」
葵に会いたくてたまらない、だけど自分から連絡することはできなくて、また一週間出会うことなく過ごしてしまった。
だから、今日は久々のチャンスだった。
「あ、」
葵が奥から出てきたのが見えた。
受付のお姉さんと楽しそうにしゃべっている。
おそらく、今待合室に患者はいないのだろう。
白衣姿が似合うなぁ、とぼんやり眺めていると、瞬間的に葵と目が合ってしまった。
驚いて、その場に硬直する。
葵はにこり、と微笑んで手を振ってくれたので、壮太はぺこり、とお辞儀をして病院へ逃げた。
大人の余裕だなぁ、と余裕のない自分にため息をつく。
が、これで分かった。
今日薬局に行けば葵に会える、と。
そんな思いが胸に募り、鼓動が高鳴った。
改めて恋してるな、と思った。
気付けば先ほどまでの鬱々した気持ちはどこかへいってしまったようだ。
今はそんな暗い思いよりも、葵に会いたい気持ちの方が大きい。
会って何かしたい、ということは特にないのだけれど。
――で?葵さんにはいつ告白すんの?
理人の言葉が脳裏をよぎる。
壮太はガチ惚れしているけれど、葵はどうなのだろうか。
今まで葵の方からアプローチがあったことなんて、指を折れるかくらいの数しかない。
もし葵が壮太のことを想っているなら連絡の一つや二つしてくるのではないのだろうか。
いつまでも体の関係ばかりで、それが楽だと考えられているならば、壮太は葵にとって都合の良い存在でしかないだろう。
そう言われるのが実はかなり怖い。
失恋も原因だか、これも告白できない理由の一つだった。
「んー、それ、いつまで経っても解決しないよね」
「う……」
気付けば壮太は主治医に悩みを打ち明けていた。
まさか医者に恋愛相談する日がくるなんて思ってもいなかった。
主治医曰く、今の鬱の原因の一つに壮太の恋が絡んでいるらしく、まずはそれを解決しよう、という話だった。
「勇気を出せるか出せないか、だよね。出せないなら、ずっとそのままだよ。相手に期待しちゃいけない。君なら十分にわかるでしょう?」
ぐさぐさと主治医の言葉が突き刺さる。
確かにそうだ。
このまま受け身のままでいても何も解決しないし、わだかまりが増えるだけ。
それが多かれ少なかれ、鬱の原因にもなっている。
原因が分かったのなら取り除かなければならないだろう。でないと鬱が酷くなるだけだ。
「決心がつきました」
「うん、表情が生き返ったよ」
死んでたのか、表情。と心の中で突っ込んでしまった。
自分ではなかなか己の表情の変化に気付かないものだ。
まさかの恋愛相談の時間になってしまったが、なんだかすっきりした。
想いを伝えよう、そう思った。
結果がどう転ぶかは分からない。最悪の場合、ショックを抱えることになるだろう。
だけど、今のこの状況よりはいずれも進んだ形になる。
一歩進まなければならない。
それには誰も後押しなんてしてくれない。
自分がやるしかないのだ。
処方箋を受け取って、壮太は医療モールを出た。
薬局に入る前に深呼吸し、意を決して中へ入った。
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