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第19話

薬局に入る前に深呼吸し、意を決して中へ入った。 時刻は朝の十時前。 患者さんがちらほらいる程度だ。 「こんにちは」 「こんにちは」 いつもの受付のお姉さんに挨拶をし、処方箋とお薬手帳を渡す。 ソファに座って調剤室の様子を伺った。 入力を終えた処方箋が調剤室へ移動し、それをもとに薬剤師による調剤が開始されている。 数年後には自分があそこにいるかもしれないと思うと不思議な気持ちだった。 その前にまずは試験をクリアしなければならないのだけれど。 現実が急に目の前に現れたようで、少しげんなりしてしまった。 「中川様、中川壮太様」 葵に呼ばれ、壮太はソファから腰を上げ、急いで投薬カウンターへ向かった。 「久しぶり。あんまり体調よくないみたいだね」 増えた薬を指さされ、なんでもお見通しだなぁ、と苦笑する。 主治医が念のためのお守りに、と安定剤を処方してくれていたのだ。 お金を払い、薬を受け取りながら、壮太は口を開いた。 「あの……」 急に口の中が渇いてきた。 言おうとした言葉が一旦戻ってしまい、壮太は一人焦ってしまう。 「どうしたの?」 「えっと、……」 ここで口籠っていても進まない。 壮太はぶんぶんと首を横に振り、意を決して葵を見た。 「話したいことがあるんで、時間を作ってほしいです」 どくん、どくん、と心臓が高鳴る。 断られたらどうしよう、ただそればかりが心配で、不安で、手のひらに変な汗をかき始めた。 心なしか、指先が震えている。 「夜でもいい?」 そんな壮太の胸中を知ってか知らずか、葵はいつものように柔らかな笑みを浮かべ、こちらへ向けてくれた。 それだけで心が落ち着いて、震えが止まった。 「はい、大丈夫です」 「じゃあ、連絡するね」 「ありがとうございます!」 葵から薬を受け取って、壮太は一礼し、薬局をあとにした。 今夜だ。 今夜、色々なわだかまりがひとまず解決する。 早く夜にならないだろうか。 そんなことを考えながら壮太は大学へと向かった。

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