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第20話
講義が身に入らなかったわけではない。
内容はどんどん難しくなってきて、理解するのも一苦労になってきていた。
帰宅後、今日の復習をしながら壮太は頭を抱えた。
分からなかったところはシャープペンシルで丸を付けて振り返るようにしているのだが、今日は丸が多すぎる。
こんなことならさっさと帰らず、理人に質問攻めするべきだった。
ラインでやりとりするには内容が複雑で、電話すると上手く伝えられないような気がして。
そうこうしているうちに夜の7時になっていた。
1時間教科書と睨めっこしていたわけだが、全く何も解決しなかった。
だんだん頭が痛くなってきたので教科書を一旦閉じ、床に背中から寝そべった。
試験をクリアしている未来が想像できない。結構やばい気がする。
でもどうすればいいのか。これ以上何をどう頑張ればいいのか、壮太にはてんで分からない。
壮太の家は医師家系である。
兄が二人いるのだが、その兄は二人とも医師として働いている。
二人に比べるとそこまで勉強が得意でない壮太はよくバカにされたものだ。
勉強のできる兄にでもコツを聞けばいいのだろうが、バカにされるのが目に見えているのでそれは絶対にしたくない。
その時だった。スマホが数回振動した。ラインに新着メッセージが届いたようだ。
「あ!」
葵だった。「仕事終わった。どこに行こうか?」と書いてある。
「葵さん、か……」
困ったことがあったら頼るように言われていた。
今日話したいことは別件だけれど、すがれるのはもう葵しかいない。壮太は意を決してメッセージを送ることにした。
『家にいます』
『じゃあ一回帰るね。どこか食べに行く?』
『それもいいですが、うちに来ませんか?』
そのメッセージを送信したのち、返信がなかなかなかった。
帰る支度でもしているのだろうか、スマホを見ていないのだろうか。
いや、でも既読はついている。
そんなに壮太の部屋に来るのが嫌だったのだろうか、とだんだん不安になってくる。
『無理強いはしません、ご飯食べに行きますか?』
既読にはなるが、返事はない。
見れるけれど返事ができない状況、ということだろうか。
色々な考えを巡らせていると、ようやくスマホが振動した。
『行っていいの?』
返ってきたメッセージがそれだった。
何故そんなことを聞いてくるのだろう。そう思っていたけれど、すぐに考えは別の方向へシフトした。
これではまるで、壮太が自ら誘っているみたいではないか。
違う、今日はそんな気持ちは微塵もないのだ。
早く誤解を解かなくては、そう思い、壮太は急いでキーをタッチした。
『勉強のことで相談したいことがあります』
どくん、どくん、と心臓が高鳴る。
変な風に捉えられていたらどうしよう、と緊張してしまう。
『了解、待ってて』
その返事を見て、ようやく壮太は落ち着いた。
誤解はきっと解けたと信じている。
とりあえず、参考書を片付けよう。そう思い立ち、壮太は上体を起こした。
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