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第30話
「葵さん来てるよ」
「え?」
壮太は顔を上げ、ドアの方に視線を移した。
それに応じ、葵がひょっこりと姿を現す。
刹那、壮太の頬が一気に赤らんだ。理人の服を握る手の力が一気に強まり、緊張してるのかな、と思わず笑いたくなってしまう。
「壮太、どうしてそうなるまで言ってくれなかったの?」
葵は近付いてきて、ベッドの側に腰を下ろした。壮太を見上げる形だ。
「ね、壮太。もっと頼ってよ」
確かに、壮太はなかなか人を頼ろうとしない節がある。
今日だって限界ギリギリになってようやく呼び出しを食らったのだが、兆候はあったはずなのだから、もっと早く助けを呼んでくれてもよかったのだ。
そうすれば、ここまで気持ちが沈むことはなかったかもしれない
。だから、葵の言葉には理人も頷くしかなかった。
「お前な、一人じゃないんだから。オレだって、葵さんだっているんだから」
「……迷惑、かけたくなくて」
「そう思う方が迷惑だけどなぁ」
苦笑しながら葵は言った。
確かに、と理人も同意する。
「折角恋人同士になったんだし、もっと頼って?」
「そうだぞ、壮太。恋人なん……恋人?!」
今、葵は何と言っただろうか。聞き間違いだろうか。
葵を見て、壮太を見る。
いつの間にそこまで関係で進展していたのだろう。
ここ数日、大学で会ったけれど一言もそんなこと口にしていなかった。
いや、まあ、口数少なかったから会話と言えるような会話をしていないのだけれど。
それにしても、である。
報告くらいしてくれたらいいのに、と思うのはよくないことだろうか。
「おま、いつの間に!はあ?!」
と、いうことは、だ。
理人は壮太の彼氏である葵の目の前で壮太をぎゅーっと抱きしめてしまったということになる。
心臓を鷲掴みされたような痛みが走る気がした。
胃がキューッと痛くなる。
これは、まずい展開だ。
「葵さん、すみません、オレ、そうとは知らずに壮太を、」
「ああ、気にしないで。三人仲良くセックスした仲だし、今更だよ」
「う……」
葵は理人が忘れようと思っていた過去を平気でほじくり返してくれる。
確かに気持ち良かったし、いけないことをしている気分で興奮もしたけれど、もうしちゃだめだ、と自分自身に何度も何度も言い聞かせたのだ。
「あ、あのときは……?」
「付き合ってないよ。あのあと一週間後くらいにね」
「ほ、ほう……」
一体何があったのか、馴れ初めを色々聞きたいところだけれど今の壮太はそんなことに答える心の余裕はないだろう。
それに関しては後日問い詰めるとしよう。
と、するとだ。
いよいよ理人は邪魔者ではないか、と葵と壮太に挟まれながら考えてしまう。
もう、帰ってもいいだろうか。
壮太はいつまで理人に抱きついたままなのだろう。
とっても心苦しい。
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