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第31話

「壮太、オレじゃなくて葵さんに甘えなよ」 「……無理」 なんでだよ!と理人は心の中で突っ込んだ。 ちらり、と理人は葵を見る。 葵は別に気分を害したわけでもなく、むしろその理由を理解しているかのような、そんな表情をしていた。 「まだ心を開いてはくれないかな」 「……そうなのか?壮太」 壮太は困った様子で理人に助けを求めてくる。 恋人がいるのに恋人に頼らない。 きっと、過去の失恋の経験のせいなんだろうな、と推測はできた。 葵も恐らく同じだろう。 「……嫌われるの、嫌だから」 ようやく重い口を開いてくれた。 壮太は相変わらず理人に抱きついたまま、葵をちらり、と横目で見る。 「こんなオレ、重いでしょ? 嫌でしょ? しんどいでしょ?」 「……それが、前の彼氏と別れた原因なんだね?」 葵は立ち上がると壮太の頭を優しく撫でた。 びくん、と壮太の体が反応した。 「そんなの、大した問題じゃないよ」 そう言って、おいで、と葵は手を差し出した。 「全部ひっくるめて、そういうとこも全部愛おしいんだよ。だから、怖がらないで?」 「……本当?」 ようやく理人から離れると、壮太は葵の手をとった。 「本当だよ。だから一杯甘えていいんだよ」 壮太の目尻には涙が浮かび、一粒、また一粒と涙が零れ始めた。 今まで背負っていた不安に思っていたことや重荷になっていたものが崩れ落ちたような、そんな感じだった。 「……葵さぁん……!」 ベッドから降り、壮太は葵に思いきり抱きついた。 わんわん泣き続ける壮太を葵はよしよし、とただただ頭を撫でて受け入れる。 本当に、素敵な人と結ばれたんだな、と他人事ながらなんだか嬉しくなってしまう。 今まで誰かに頼るでもなく、何かあれば赤の他人とホテルへ行って。 そんな危なっかしい生活はきっともうお終いだろう。 これからは葵が側にいてくれる。 葵なら、どんな壮太でも受け入れてくれる。 なんとなくだけど、理人はそう思った。 友人の幸せをこんなに嬉しく感じたことは初めてかもしれない。 「葵さん」 理人もベッドからおり、床に正座した。 「壮太をよろしくお願いします。……って、オレ、親でもなんでもないんですけど、親友として、お願いします」 「うん、任せて。壮太の想いを裏切るようなことは絶対にないから」 いい人に巡り合えたな、と気付けば顔が綻んでいた。

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