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山下友治 1

医療モールの門前薬局に山下友治(やましたともはる)は勤務している。 医療モールには四つの医療機関が入っているが、その内二つに小児科と内科が入っているため、夕方以降は結構多忙だ。 十三時を回り、休憩の順番が回って来たので休憩室へ移動した。 コンビニ弁当を広げていると、真正面に同僚である原葵が腰かけた。 今日も自前の手作り弁当らしい。 「お前、最近機嫌いいけど、いいことあった?」 割り箸を取り出しながら友治は尋ねる。 まあね、と言いながら葵はお茶をすすった。 「恋人ができたんだ」 「……は? 寝言か?」 「マジな話」 「………ほう」 友治はどうしても葵の言葉を信用できないでいた。 それもそのはず、葵が今まで特定の恋人を作ったところを見たことがなかったからだ。 同時期に入社し、同じ店舗に配属され、何故か同じ店に同じタイミングで異動になるという稀なケースで入社以降約三年、ずっと一緒に働いている。 見るたびに知らない男の影をチラつかせる葵を見ながら、フットワーク軽いなぁ、なんて思っていた。 そんな男が特定の恋人を作ったなんて、あまりにも衝撃的だった。 本当に、信じられないでいた。 「残念?」 「なんでだよ」 「オレのこと、気があったら申し訳ないなぁって」 げほ、げほ、とむせながら、あのなあ、と溜息をついた。 「寝言は寝て言え!誰がお前みたいな節操なしを恋人にするか! っつーか、オレはボインが好きなの、ボイン!」 「へえ? オレの目の前であんなに可愛く泣いていたのは誰だっけ」 「……忘れてくださぁい」 飲み会帰りに妙なテンションで友春の部屋に泊まらせて、そのまま成り行きで関係を持ってしまった過去があるのだが、その後も人肌恋しい時は何度か相手をしてもらったことがある。 最近は誘っても断られていたので、もしかして、と思っていたが、まさか本当に恋人ができたなんて思わなくて。 だから、にわかに信じられなかった。 「あ、ライン」 そう言うと、葵は話しながらスマホを操作する。 「何?オトコ?」 んー?と適当な返事をしながら葵はラインに集中している。 返事を打ち終わったところで顔を上げ、にこ、と笑顔を向けた。 「うん、オトコ。壮太だよ。精神科通いの中川くん」 「はあ?」 中川壮太というと、二週に一度来局する男子学生だ。 「って、お前は患者に手を出すな!」 「それはたまたまだよ。出会いはハッテン場だから」 「それはそれでどうなんだよ中川ぁ……お前学生だろぉ……」 友治は頭を抱えて項垂れた。 捕まったのが葵だからよかった(いや、良いか悪いか実際には分からないけれど)ものの、変な人間に目をつけられたら危ないことに変わりはない。 「まあ、お前で良かった……のか」 「そうだね」 葵は言いながらふふっと笑う。 「優しいね」 「放っておけない性格なんだよ」 壮太の性癖に首を突っ込むつもりはないが、壮太の件は本当に相手が葵で良かったと思っている。 他人事なのに自分のことのように心配してしまう癖はなかなか治らない。 治す必要はないかもしれないが、度を過ぎると厄介なものだ。 壮太は来るたびに落ち込んでいることが多く、よく目に留まっていた。 なので友治だけでなく、他のスタッフも壮太のことは気にかけていた。 なかなか話しかけ辛く、例え話しかけても最低限の返事しかしないため、接するときはデリケートに、とは注意を受けていたのだが、まさかそんな壮太が葵に捕まってしまうとは。 ハッテン場から壮太を救った件は良しとしても、付き合うとなると話は別である。 壮太の将来が本気で心配になってきた友治は、あのさあ、と葵に声をかける。 「遊びなら、早いとこ離してやれよ?」 「違うよ、本気」 葵はスマホで文字を打ちながら答えた。 その声は力強く、今までの軽い感じとははっきり違っていた。

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