34 / 73
山下友治 2
「オレは本気で壮太の全てを愛してるんだ」
メッセージを送信し、ご飯を食べながら葵は続ける。
「初めは一目惚れだったよ。可愛い子だなーって思って、声かけたらオッケーもらって、ラッキーって思いながら寝たよ。でもきっと、運命の人だったからだろうね、そのまま別れるのは惜しくなって。わざと忘れ物して再会の機会作ったんだ」
「聞いてて恥ずかしいことと突っ込みたくなることを一緒に話すな、反応に困る」
友治はハンバーグを半分に箸で切りながら、で?と先を促す。
「その作戦は成功したんだろ?来てたもんな、夕方のゴールデンタイムに」
「そうだね。」
夕方の忙しい時間、おどおどしながら薬局に入ってくる壮太の姿を友治も見ていた。
勿論、そこへ声をかける葵の姿も。
「投薬したときにラインのID渡してたんだけど、正解だったよ。話せないってわかったみたいで、ラインしますって言ってくれて。ほんと、オレってついてるよね」
「計画犯かよ、こわー」
「運が味方してくれたんだよ」
葵はにこにこと微笑みながらスマホを操作している。
壮太とやり取りをしているのだろうが、ここまで幸せそうな顔を見るのは初めてだった。
普段の笑顔とはまた違う、言うならば、自然な笑顔、というか。
「その日は潰れちゃったからお持ち帰りしたんだよね」
「お持ち帰りって……お前ら隣同士だろうが」
職務上壮太の住所や誕生日は知っている。
が、それを私利私欲のために使ってはいけないので壮太の前では知らない振りをし続けていた。
それは葵も同じだろう。
「で?その日はお終い?」
「いや、途中で壮太起きたから飲み直してたんだけど、あんな風に誘われたら、ねえ?」
「お前の緩い下半身に少しでも期待したオレがバカだったよ」
友治の言葉に、へえ、と葵は笑む。
「その緩い下半身に散々泣かされたのは誰だっけ?」
オレですぅ、と友治は再び項垂れた。
葵のテクニックの前では正気を保っていられない、というのが本音だった。
なので、壮太も大変だろうなぁ、と友治は同情の念を抱いている。
「ちょっとー、休憩に入りにくいんですけどー」
そう言いながら休憩室に入ってきたのは事務スタッフの溝田弘美(みぞたひろみ)だった。
弘美は葵と同い年、友治は二人より三歳上だ。
同い年ではあるが社会人経験は弘美の方が長い。
ちなみに、弘美は二人の関係やら性癖やらは知り尽くしているので今更そんな話題を出されても驚きはしない。
「何の話?」
「えー、みんな手作り弁当かよ……」
友治は二人の弁当を美味しそうに眺め、溜息をついた。
料理は苦手なのだ。
「中川くんと葵が付き合い始めたって話」
「うっそ!」
弘美もやはり信じられず、驚きを隠せないでいた。
葵は自慢げに笑みを浮かべている。
「溝田さん、壮太のこと気にかけてたもんね」
「そりゃねえ、毎回あんな死んだ魚の目で来られたらねえ」
声をかけても小さな声でしか返答しないので、いつか自殺するとか言い出さないかと気が気でなかったのだ。
そういえば最近の壮太は明るくなったかもしれない。
声をかけると明るく返してくれるし、以前と比べるときちんと前を見て歩いている。
それが葵のおかげかと思うとなんとなく癪に思ってしまうのは何故だろうか、その感情はよく分からない。
「ラブラブみたいだぜ。ほら、ずーっとラインしてる」
「あ、それ壮太くんとやり取りしてるの?熱ぅい」
「いいでしょ」
ご飯を食べ終わると、葵は席を立った。
「ちょっと電話」
「おう」
そう言うと、葵は休憩室を出て外へ行ってしまった。
おそらく壮太に電話をかけているのだろう。
ともだちにシェアしよう!