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山下友治 3

「あの原くんが恋人ねぇ。私はてっきりあんたたちがくっつくのかと思ってた」 「んー、まあ、包容力はあるし、頼りになるし、何をさせても格好いいし、身を委ねたくなる気持ちは不本意だが分かる。イケメンだしな」 「イケメンだもんね。イケメンは何しても許される気がするよね」 「わかる……ほんと、分かりすぎて泣けてくる……面食いなんだよオレぇ」 最後の一口をお茶で流し込み、友治は大きく溜息をついた。 気がなかったといえば嘘になる。 相手がこのままいないようであれば、と考えていたこともある。 だけど葵にその気はないと分かっていたので抱いていた小さな違和感はそのままそっと奥深くにしまいこんでいた。 実際、それは正解だった。葵が選んだのは壮太だったのだから。 「今なら泣いてもいいんじゃない。」 「なんであいつのせいで泣かなきゃいけないんだよ」 友治は潤んだ瞳をティッシュで拭い、証拠隠滅を図った。 誤魔化せたかどうかは知らないが、そんな友治を見て弘美は苦笑している。 気を逸らそうとすればするほど、反対に葵への想いが想いが意識の中へ入ってきて困ってしまう。 それを弘美は理解しているのだろう、友治を優しく慰める。 「好きだったのかなぁ……」 溜息をついて友治はぼそり、と言葉にした。改めて言葉にすると自分の気持ちを実感する。 叶うはずのない恋心はとても切なくて、きゅう、と胸を締め付ける。 思えば葵のことを知っているようで何も知らない。 葵がハッテン場に通っていたこともつい最近知ったことで、知っているのは仕事上の表面的なことだけなんだと思い知らされ、壮太に敵う要素はどこにもないことを改めて痛感する。 もっと素直になれば未来は多少変わったかもしれないが、今となっては後の祭り。 葵の中には壮太がいる。 もうそこに入る余地なんて友治にはないのだ。 「ま、気持ちにケリつけたらさ、次の恋を探したら?」 「それが現実的かもなー」 天井をぼんやりと眺めながら友治はそう答えた。 そう、いくら悔いても、いくら考えても、現実は変わらないのだ。 ならば弘美の言う通り、次の恋を探すしかないだろう。 気持ちの踏ん切りには時間はかかるだろうけども、逆に言えば時間が解決してくれるだろう。 そうして考えを変えてみると少しすっきりしてきた気がした。 「ありがと、溝田さん」 「いいえー」 そうこうしていると、葵が戻ってきた。 電話を終えたらしい。 「今日はさっさと仕事終わらせよう」 「え?何々、あの子と待ち合わせ?」 葵の仕事やる気発言に弘美はにやにやしながら尋ねる。 隠すこともなく、葵は頷いてにこりと笑う。 「今の壮太にはオレが必要だからね」 「わあ、すごい自信ね。イケメンは言うこと違うわぁ……」 ね、と弘美は友治に同意を求めた。 異議はないので確かに、と頷く。 「仕事終わる時間くらいにここに来るって言うからさ、今日は残業できないな!」 「こりゃあ、葵にはバリバリ働いてもらわないとな」 「山下くんもサボっちゃだめよー」 葵は壮太にベタ惚れだ。 今はその恋を応援することが、友治にできる唯一のことだろう。 「大事にしてやれよ、葵」 「うん、溺愛してるよ」 そうすることで、この気持ちに決着をつけるのだ。

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