36 / 73
山下友治 4
葵は宣言通り、普段の倍速で動き、次々と仕事をこなしていった。
そして見事宣言通り閉局時間丁度にシャッターをおろすことに成功してしまった。
「今日の原さん、気合入ってますね」
「やる気じゃん、原。明日もよろしく!」
とか、周囲は言っている。葵は愛想よく笑って過ごしながらもさっさと片付けを済ませ、定時に退勤した。
やることもないので友治も葵と共に職場を出た。
愛の力はすごいと思う。
「で?愛しの中川くんはどこにいるんだ?」
「えっとー、」
葵がラインを確認していると、遠くの方からパタパタと走る音が聞こえてきた。
「葵さん、お待たせしました!」
壮太が走ってやってきた。
隣にいるのは友人だろうか。
てっきり壮太だけだと思っていたので友治は驚いた。
「理人に勉強教えてもらってたんです」
「そか。じゃあ、帰ったら成果見ようかな」
「はい!」
壮太は薬局に来るときと比べ物にならないくらいに明るかった。
こんな明朗な壮太、初めて見る。
あまりの別人っぷりに友治は唖然とし言葉を失っていた。
恋をするとここまで変わるのだろうか。
それとも、普段はこんな感じなのだろうか。
「こっちは同僚の山下友治。友治、そっちの子は壮太の親友の理人くん」
紹介されると、理人はぺこり、と礼儀よくお辞儀をした。
「今からご飯行くけど、友治も来る?」
「え?行っていいの?」
突然のご飯の誘いに友治は驚いた。
仲の良い三人の中に入っていいのかどうか、判断ができなかったからだ。
迷っていると理人がにこっと微笑んだ。
「勿論いいですよ、大勢の方が楽しいですし、壮太も気分転換になると思うんで」
ね、と理人が笑顔を見せた。
その笑顔に一瞬、どきん、としてしまったのは気のせいだろうか。
壮太は童顔で可愛い系の、葵好みの顔であるが、隣に立つ理人もまた、ジャニーズ系というか、爽やか好青年というか、モテるんだろうなあ、という容姿をしている。
まさかな、とは思うのだけれど、気になるのは確かで。
面食いなのは元々ではあるのだが、多分、容姿に惹きつけられているのだろう。
「じゃあ、お邪魔しようかな」
理人のことも気になるので誘いに乗ることにした。
壮太はお酒が飲みたいらしいので近くの居酒屋に入った。
座席に座るのだが、必然的に壮太、葵が横並び、友治、理人が横並びで向かい合う形になった。
決して狙っていたつもりではないのだが、これは理人のことをよく知る好機である。
「ご注文お決まりですか?」
店員がやって来たので皆は急いでメニューに目を通す。
日本酒からカクテルまでメニューは幅広い。
「オレたちカルーアね」
「甘いの好きだなぁ、お前」
葵はいつも甘めのカクテルを頼む。
ビールや日本酒は飲めないわけではないがどうも苦手らしい。
女子的にはそれが可愛いらしいが友治にはよく分からない。
「んー、梅酒ロック」
「あ、じゃあ、オレもそれで」
理人は好みの酒がないのだろうか、面倒くさかっただけなのか、友治と同じものを注文した。
ともだちにシェアしよう!