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山下友治 5

いくつかつまみを頼み、談笑していると酒と料理が運ばれてきた。 「じゃあ、仕事に勉強にお疲れ様!かんぱーい!」 カチン、とグラス同士が音を立てた。 お腹もすいていたのでつまみを食べながら、ちらり、と友治は対面の二人を見た。 改めて、こんな壮太を見れる日が来るなんて思いもしていなかったので新鮮だ。 「中川くん、葵のどこが好きなの?」 「えっ?」 突然の質問に壮太は驚き、固まってしまった。 葵をちらり、と見るが、葵はにこにこといつもの笑顔を見せるだけで助けに入ろうとはしない。 「え、えっと、全部、ですけど」 かああっと顔が真っ赤になる壮太が可愛らしかった。 壮太は酒を口に運び、自分を落ち着かせるとグラスを置いた。 「優しいとこも、オレのこと受け入れてくれるとこも、格好いいとこも、大好きです」 「照れるなぁ」 横で葵は嬉しそうにそんなことを言っている。 照れる、とか言いながら表情一つ変えないのだから、壮太にそういうことを言わせたかったんだろうな、と推測できる。 いや、もしかしたら表情に出さないだけで内心恥ずかしがっているかもしれないが、ぱっと見は不明だ。 暴露したのがよほど恥ずかしかったのだろう、壮太の酒を飲むスピードが早い。 今日もお持ち帰りされるんだろうなぁ、と思ったのは友治だけではないはずだ。 あーあ、と小さく呟いたのは理人だ。 「これ、お持ち帰りコースだと思います」 ぼそり、と理人が友治に囁いた。その顔は少し曇っている。 「多分、巻き込まれます」 「え?どういうこと?」 「まあ、いつものことなんで」 理人の言っている意味がよく理解できなかった。 が、理人はそれ以上教えてくれなかった。 その時になれば分かる、とでも言いたげだ。 その後も談笑しながら夕食を進めていくうちに、全員の予想通り、壮太の酔いが回ってしまった。 葵にぴっとりとくっつき、肩に頭を預けてしまっている。 「壮太ー、少し寝たら?」 理人の声かけ空しく、壮太はやだーと首を横に振る。 「だいじょぶー。カールーアー!」 「まだ入ってるだろ!」 カルーアミルクの入ったグラスを指さし理人は突っ込んだ。 酔った壮太もまた、見ている分は可愛らしいものだ。 壮太はふわりと笑いながら大好きなカルーアミルクをちびちびと飲んでいる。 「苦労してるんだね、君も」 「ああ、まあ、慣れました。今は葵さんが介抱してくれるし、楽になりましたよ」 とか言いながら遠い目をして理人は笑っている。 よほど苦労した過去でもあるのだろう。 「理人くんは付き合ってる子いないの?」 「オレですか?いないですよ」 どうやら理人は今現在フリーらしい。 そんな情報を聞いて、だからなんだ、という話ではあるのだが、少し嬉しさを感じている自分がいた。 チャンスはあるということだ。

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