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山下友治 6

「好きな子は?」 「えー? あー、」 理人は少し困った様子で、葵が壮太に話しかけているのを確認してから声をボリュームを下げた。 「……ちょっと気があった子なら、目の前に」 「へえ。失恋?」 「なんですかねえ?でも、好きだったかどうかって言われると、よくわからないです。世話のかかる可愛い弟って感じだったんで」 梅酒を飲みながら理人はそんなことを暴露してくれた。 小声なのと、周囲のざわめきでおそらく葵には聞こえていないだろう。 「オレも、多分葵のこと好きだったからさ。失恋したばっかり」 笑いながら友治は言った。 失恋仲間であることをアピールしたかったわけではないけれど、今の自分の現状をなんとなく話しておきたかった。 「同じ境遇だね」 「ですね。まあ、あの二人には勝てないです」 「確かに」 壮太を笑顔にできるのはきっと世界中探しても葵だけだろう。 それが分かっているから理人は想いも告げずに身を引いたのだろう。 その気持ち、共感できる気がした。 「似たもの同士、仲良くしよう?」 「ははは、ですね。ラインでも交換しときます?」 「いいよ」 その場のノリでラインの繋がりができた。 これは大きな収穫だ。 ……そんなこと考えるなんて、まるで理人に恋をしているみたいではないか。 否、もしかしてこれは恋なのかもしれない。 理人を見るとドキドキするし、綺麗な子だとは思っているけど、可愛いなぁ、とも思う。 身長差が十センチメートルくらいあるのでその影響かもしれないが、それ抜きにしてもそう思う。 我ながら面食いだな、と苦笑せずにはいられない。 「あいつらはこのままベッドだろうなー」 「ですね」 ちらり、と理人を見る。 酒には強い方なのか、顔色一つ変わらない。 「寂しくない?」 「……」 理人はグラスを置いて、二人を眺めた。 完全に二人の世界に入っているのでこちらには気を留めてもいないだろう。 「山下さんがいてくれて助かりました。ぼっち食らうとこでしたもん」 「ははは、確かに」 きっと今日は壮太に無理を言われてついてきたのだろう。 理人は玉子焼きを口に運び、美味しいー、と呟いている。 チャンスかな、と思った。 「……今夜、どう?」 「え? 今夜、って、何がです?」 我ながら最低なことをしようとしているのはよく分かっている。 三十路の男が二十代前半の若い青年になんてことを言っているんだ、と理性では分かっている。 「今夜だけでいいからさ、慰め合わない?」 だけど、感情がついていかない。 理人と何か繋がりが欲しい。 今すぐに、強いつながりが。 そんなことを思ってしまった。 理人は少し考えて首を傾げた。 「それって、オレのこと誘ってるんですよね?」 理人は壮太の方をちらり、と見た。 経験があるのかないのか、それは定かではないが意味は分かってくれたらしい。 梅酒を飲み干すと、理人はにやり、と口元を歪めた。 とん、と伝票を指で叩く。 「ここ、オレの分奢ってくれるならいいですよ」 「はは、お安い御用さ」 大人として順番を間違えているのは理解している。 だけど寂しさを埋める手段が見つからないし、理人をここに少しでも長く留める方法も思いつかない。理人と繋がりたい、とも強く思う。 結果、思考はそちらの方へ逃げてしまった。 悪い大人だな、と心底思う。

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