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山下友治 8

部屋に着くや否や、友治たちがいるにも関わらず壮太は葵を誘い始めた。 色っぽい壮太を目の当たりにし、目のやり場に困ってしまう。 「理人くん、いつも?大変だね」 「まあ、慣れましたよね」 二人の接吻を眺めながらそれが終わるのを待つ理人をちらりと見た。 体格は華奢な方。背も高いわけではない。壮太と同じくらい、165センチあるかないかだろう。 ちらりと見える首筋が艶めかしく、思わず生唾を飲み込んでしまう。 「理人ぉ、」 壮太が猫なで声で理人を呼ぶ。 本人は葵にしがみついたままで、とろんと蕩けた表情をしている。 壮太に誘われても理人は慣れているのか、動じない。 はいはい、と軽くあしらうだけだ。 動かない理人を見て少しむっとし、おいでおいでと壮太は手招きまでし始めた。 「言ったでしょ、巻き込まれるって」 「……えっ」 理人は溜息を一つつき、壮太へ近付いて行った。 刹那、突然壮太が理人の頬にキスをしたではないか。 目の前で一体何が起きているのか友治には分からず、目を点にしてその光景を眺めることしかできなかった。 壮太は葵と付き合っているんだよな?と自分の中で再確認する。 付き合っていて、普通他人にキスをするだろうか。 キス魔、という感じでもなさそうだ。 「壮太、葵さんが側にいるだろ?」 全くだ、と友治は心の中で同意する。が、壮太は首を横に振る。 「理人もいる」 「オレは山下さんと仲良くしてるから」 「ええー!なんでー?」 葵は顔色一つ変えず、二人のやり取りを微笑ましそうに見ているだけだ。 友治が葵の立場ならそんな余裕の表情浮かべていられないだろう。 葵にとって、恋人が自分以外の男の頬へ接吻することなどどうということもないのだろう。 それとも、相手が理人だから許しているのだろうか。 「葵さん、どうしよう。理人に嫌われちゃった……」 「嫌ってるとかじゃなくて、えっと……」 酔っぱらい相手に真面目に受け答えをする理人を尊敬してしまう。 が、理人もいよいよ参ってしまったようで、理人は更に困り果て、救いの手を葵に差し伸べるべく視線を必死に送っている。 が、当の葵はにこにこ笑みを浮かべており、この状況を楽しんでいるかのようだった。 本当に、いい性格をしている。 「壮太はみんなに酷くされたいんだよね?」 「……うん」 うん、じゃないだろ!と突っ込まずにはいられない。 なんだか胸騒ぎがする。 いや、そういう展開を期待しているわけではないし経験したことすらないのだけれど、なんとなく、だ。 とりあえず、理人は困っているみたいなのでなんとかそこは助け出したい。 そう思い、友治は三人に近付いた。 「ごめんな、中川くん。理人くんは先約があるから」 「先約?」 「そ」 とんとん、と理人の肩を叩くと理人が後ろを振り返り、友治を見上げた。 同時に、友治は理人の唇に自分のものを重ねた。 唇を重ねるだけの軽いキスだが、それだけで十分効果はあったらしく、壮太は驚いた様子で身動き一つしない。 「ね」 目くばせをすると、理人は気付いたようで、こくん、と頷いた。 「……そ、そういうことだ。ごめんな、壮太」 理人は友治が作り出したこの流れに便乗してくれた。 空気を読める男で助かった。

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