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原葵 4

「上がったー」 そうこうしていると、理人の声と同時にリビングに二人そろって入ってきた。 「キレイになった?」 「……葵さん、その聞き方なんかエロいです」 壮太が頬を赤らめながら言うので、きっと風呂場でそういうことがあったんだろう、ということが容易く想像できる。 禁止はしていないので文句を言うつもりはない。 やりたいようにすればいいとも思う。が。 「……」 なんだかもやもやした気持ちが心の中に生まれたが、正体はよく分からない。 こんな感情を抱くのは初めてだ。 いつもなら恋人が他の人間とキスしようが寝てしまおうがなんとも思わないのに、だ。 友治は理人を手招きした。応じるように理人は友治に近付く。 「理人くん、オレの部屋に泊まるだろ?」 「ああ、そうですね」 理人は壮太をちらり、と見た。 「葵さんと壮太と一緒にいると、身が持たないんで」 「はは、よっぽどこたえたんだ?随分良さそうにしてたけどなー?」 友治の言葉に理人は頬を赤らめ、「もう!」と恥ずかしそうに抗議した。 そういう所も可愛いんだろうな、と葵は微笑ましく二人を見る。 「そういうことだから、葵。また明日な」 「ああ」 友治は手を振ると、理人の肩を抱いて玄関の方へ歩いて行った。 いつの間にあんなに距離が縮んだのだろうか。 理人も気を許しているのであれば、友治にも勝機はあるかもしれない。 扉が閉まる音が聞こえ、部屋には壮太と葵の二人だけになった。 風呂上がりの壮太は蒸気で頬が赤らんでいて、色っぽい。 実は葵は二人きりというのが苦手だった。何を話せばいいか分からなくなるし、何をしたらいいのかも分からなくなる。 気の利いたことなんて何もできない。 だけど無言のままでは息が詰まってどうにも苦手で、だけどどうすればいいかも検討がつかず、髪をタオルで拭いている壮太をぼんやり眺めていることしかできなかった。 「四人でやるのとか、初めてでした」 ぼそり、と壮太が口にした。勿論葵だって初めての経験だ。 敢えてそれを表に出したりはしないけれど。 「どうだった?」 「どうなることか、ドキドキしたけど、気持ち良かったです」 「そか」 にこり、と葵は微笑んだ。照れながら言う壮太がまた可愛い。 「壮太、気持ちよさそうに乱れまくってたもんね」 「……うぅ」 かあっと耳まで真っ赤にする壮太を今すぐにでも食べてしまいたい。 そんな衝動を抑え、葵はただただ隣で微笑む。 あくまでも、余裕のある大人の姿を壮太の前では見せておきたかった。 実は全然余裕がないなんて格好悪くて壮太には見せたくない。 「でも、」 壮太は葵をちらりと見て、視線を床に落とした。 「葵さんと二人でする方が、好き、です」 「……!」 そんなことを言われて我慢できる人間がこの世にいるだろうか。 どくん、どくん、と心臓が高鳴る。 でも、さっきまで散々交わったばかりでまた性行為をするのは壮太の体に負担がかかってしまう。 だけど、この気持ちを抑えることはできそうにない。 「壮太、おいで」 葵はそう言って、両手を広げた。 壮太は床にタオルを置き、吸い込まれるように葵に抱きついた。 ふわり、とシャンプーのいい匂いがした。

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