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中川壮太 2
「葵さんは、きっと気にしないと思う」
「オレが気にするんだよ」
理人は壮太を抱きしめたまま、ぽん、と優しく頭を撫でた。
まるで子供をあやし、なだめるかのように。
「壮太、前に進もう?」
「……前、に」
理人がいなくても大丈夫なようにならなくてはならない。
もっともっと強くならなくてはならない。
そんなこと、前々から思っていたことだ。
思っていたけど叶わないのは壮太の意思の弱さかもしれない。
或いは、理人への依存心があまりにも大きすぎるのかもしれない。
大きすぎる依存心のせいで、理人を失うと大きな不安が押し寄せるのかもしれない。
「理人……」
壮太は弱々しく理人の名を呼んだ。
「理人とはもう、キスもセックスもしないって言ったら、葵さん、喜んでくれるかな」
「さあ、それはどうだろう。でも、安心はするんじゃないかな」
「安心、か」
自分の知らないところで恋人が抱かれているところなんて、普通は想像もしたくないはずだ。
例えそれが理人相手でも、だ。
だからこそ、あんなラインを送ってきたのだろう。
最大限の譲歩だったのだろう。
「今も不安に思いながら仕事してるのかな」
「かもな。気が気じゃないんじゃない?オレに抱かれてるんじゃないかって」
「……」
自分の気持ちが不安定になるのは怖い。
あの言い知れぬ不安感に襲われるのがとんでもなく怖い。
だけど、葵に不要な心配をかけたくないし、嫌な思いをさせたくはない。
その二つの気持ちの狭間で、壮太はどうすればいいのかわからなくなってしまった。
でも、自分の気持ちを無視すれば、どうすべきかなんて答えはたった一つだった。
そのことには気付いていた。気付かない振りをしていたかった。
「ありがとう、理人」
体を離すと、壮太は理人を真っ直ぐに見据えた。
理人はきょとんとして壮太を見ている。
「オレ、前に進む」
「そっか」
壮太はこくり、と頷いた。
「山下さんにも悪いし」
「いや、オレたちまだそういう仲じゃない、よ?」
急に慌てる理人が可愛くて、壮太はにやり、と笑った。
「そうなの?でも、理人は嫌いな人とはセックスしないだろ?」
「う……ま、まあ、それは、だなぁ、」
口籠りながら頬を赤らめる理人が恋する乙女のようで可愛らしい。
きっと理人も、そんな目線で壮太を見ていたのだろう。
「応援してるよ」
理人との関係を断つ。
きっと、大きな決断だと思うし、今後その決断を守り続けることができるかは壮太の意思にかかっているだろう。
だけど、葵のため、理人のため、意思を固めなければならない。
「うん、ありがとう」
壮太が一歩ずつ、前へ進むために。
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