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原葵 7
連休前の薬局はまさに修羅場だった。
幼児の泣き喚く声の中で待ち時間に関するクレームを受けながらも薬の準備を進めていく。
順番通りに調剤を続けているのに一向に終わりが見えない。
「葵、オレ泣きたい」
「泣く暇があったら手と頭を動かせ」
「厳しい……」
葵はピッキング中の友治の弱音をばっさりと切り捨てる。
葵は分包機で手際よく粉薬を撒きながら、受付の方を見た。
どんなに倍速で動きたくても人間には限度がある。
物理量的に、時間通りに終わるのは厳しいかもしれない。
折角壮太が待ってくれているのに、だ。
「……だめだ」
「え?」
葵は首を振って粉を撒くスピードを速めた。
諦めたら叶うものも叶わなくなる。
時間通りに終わらないかもしれないが、一分一秒でも早く終わらせるための努力は必要だ。
少しでも早く壮太の元へ駆けつけるためにもだ。
「先輩、それ投薬に行くのでこちらのチェックをお願いします!」
「原か、任せた」
調剤済みのカゴを先輩へ託し、先輩から受け取ったカゴを手にし投薬カウンターへ足早に移動した。
「千田様―、」
定時に終わることを絶対に最後まで諦めたくはなかった。
早く壮太に会いたい、ただただ、その一心だった。
奇跡だと思った。
営業時間こそ過ぎたけれど、定時には終わることができた。
白衣を脱いでロッカールームで栄養ドリンクを飲んでいると、友治が羨ましそうに見てきたので一本恵んでやった。
「お前、神がかってたぞ。あの無駄のない動き、凄すぎだろ……。クレーム対応も完璧すぎ」
「クレーム対応なんて、お互い時間を損するだけだからね」
葵はテキパキと片付けをし、スーツを羽織った。
友治も慌ててスーツを羽織る。仕事が終われば即退散、は今に始まったことではないけれど、今日の葵はいつにも増して迫力がある。
「そんなに心配?中川くんと理人くん二人きりにしてきたこと」
「……そんなつもりはないんだけどね。そう見える?」
「そうとしか見えない」
スマホを確認してから、葵は少し黙した。着
信は何もなかった。
それが返って不安を助長する。
今何をしているのだろう、手を離せないから何もメッセージをくれないのではないだろうか。
手を離せないとは、そもそもどういう状況だろう。
例えば、二人で夢中になってセックスに明け暮れている、とか。
なんだか嫌な予感しかしない。
「お前らしくないな。恋人が誰と何しようが、今までのお前なら無関心だっただろ」
「うん、そうだね。なんか、だめだね」
壮太のことになると不安になる。
別にセックスしてはいけないなんて言わない。
やるなら自分の目の前でやってほしい。
見えないところで知らないことをしていることが不安なのだ。
勿論、知らない人間と致されるよりは随分マシなのだけれど。
「だったら、ゴムつけろ、じゃなくて、ヤるな、って書けばよかったんだ」
「そんなこと書けない。心が狭い男みたいじゃないか」
「お前のそんなにも余裕ない姿、初めて見るけど?」
そんなつもりはなかったのだが、どうやら第三者から見るとそういう風に見えるらしい。
余裕のある大人を装っていたのだけれど、このまま直帰しても化けの皮がはがれてしまいそうだ。
が、一秒でも早く帰りたいというのも事実だ。
「まあまあ、昼飯買って行こうぜ。理人くんたち、済ませたみたいだし」
時刻は十四時だ、確かにお腹は空いている。
空腹のせいで少しイライラしているのかもしれないので友治の提案は悪いものではないだろう。
友治はラインに返事をしている。
恐らく相手は理人だ。
「スーパー寄ろうか」
慌てたって仕方ないし焦ってもいいことは何もない。
ここはスーパーに立ち寄って冷静さを取り戻すべきだ。
カバンを持つと、葵は友治と共に薬局をあとにした。
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