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原葵 9

靴を履き、ドアを開ける。 壮太も慌てて靴を履いて外へ出るとカギを閉めた。 葵は鍵を開けると、中に壮太を促す。 二人が戻ってくるのはまだかかるだろう。 靴を脱ぎ、廊下を歩こうとする壮太を後ろから抱きしめた。 「壮太、好きだよ」 ぎゅ、と抱く力を強くする。 壮太は俯いたまま、こくん、と頷く。 「二人が戻ってくる前に、してほしいことはある?」 「え、っと……」 壮太は顔を赤らめて、こちらを振り返った。 「おかえりなさいのキス、とか」 「嬉しいな」 そのまま背を丸め、壮太の唇にキスを落とした。 温かな壮太の唇を堪能し、顔を離す。 「ただいま」 「わっ、葵さんっ!」 ひょい、と壮太をお姫様抱っこしてリビングまで移動し、ソファに寝かせた。 好きな人が目の前にいて、こんなにも可愛らしいことをしてくれているというのに待てを食らうのは辛すぎる。 「ちょっとだけ」 「ちょっと?って、ん、ふ、」 壮太の唇を再び奪い、黙らせた。 舌を絡めると抵抗していた壮太も次第に大人しくなり、壮太自身も舌を絡ませてきた。 服の上から胸をまさぐると、こそばゆいのか感じたのか、壮太は身を捩じらせる。 「ふあ、ああ、そこ、」 「抓られるの気持ちいい?」 「はい……でも、」 壮太はちらり、とドアの方を見た。 まだ帰ってこないだろうが、そう遠くへは行っていないはず。 ヒートアップしすぎるときっと歯止めが効かなくなり、恥ずかしいところを二人に見られてしまう。 ……今更感もあるけれど、壮太はそのように考えたのだろう。 「葵さん、我慢してください」 「今更じゃない?」 「だめです!今日の目的は、葵さんを酔わせることなんで!」 壮太は本当に本気らしい。 自分の方が何倍もお酒に弱いくせに、一体どうやって葵の酔っている姿を見ようというのだろうか。 無謀な挑戦だとは思うけれど、それでも、そんな壮太が可愛いな、なんて思ってしまうあたり壮太にベタ惚れしていることを改めて実感する。 仕方なく、グラスやつまみを適当に用意することにした。 ダイニングテーブルにグラスとつまみのお菓子を並べていると、チャイムが鳴って、二人が帰ってきた。 葵と壮太では決して買わないであろう酒の種類が袋の中に入っているのがちらりと見えた。 日本酒なんて、飲み会の席くらいでしか飲まないのだけれど。 「席はどうしようか」 「オレ、理人の隣がいいです」 まさかだった。 てっきり、葵の隣がいいと言ってくれると思っていたのにそんなに即答されてしまうとなんだか悲しい。 「じゃあ葵、オレの横で我慢な」 「うわー……」 友治に横に座られたら否が応でも酒を飲まされてしまう。 気合を入れないと本気で酔わされてしまうだろう。 仕方なく席に着き、グラスに各々の酒を注ぐ。 カルーアミルクを入れようとすると、友治に待ったをかけられ、日本酒を差し出された。 「お前はこれな」 「えー……」 確かに好きな銘柄ではあるけれど、葵は日本酒よりもカルーアミルクが好きなのだ。 それに、何故だか泣き上戸になるときは日本酒を飲んだ日に限っている。 理由はよくわからないが、もしかしたら飲みすぎてしまうのかもしれない。 「友治、本気かよ」 「本気だよ。な、中川くん」 友治が笑顔でそう言うと、壮太ははい、といい声で返事をした。 横に座る理人もなんだかんだで楽しそうだ。 三人の目的が完全に一致している今、味方になってくれる者は誰もいない。 「でもね、断言するよ。絶対壮太が一番に落ちる」 「でしょうね」 理人はくすり、と笑って壮太を見ている。 壮太はぶんぶん、と首を横に振って否定しているが、大丈夫、今までの経験上、一時間もたないはずだ。 「じゃ、みんな、いいか?」 友治の言葉を合図に皆がグラスを手に持った。 「今週もお疲れ!かんぱーい!」 四人で乾杯を交わし合った。 戦いが始まった。

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