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原葵 10
開始三十分が経過した。
予想はしていたが、壮太が出来上がるのはいつも以上に早かった。
いつものように理人に寄りかかり、デレデレと甘えている。
それに嫉妬するようなことはないのだが、ただただ理人が羨ましい。
席を替わっていただきたい。
割と本気でそう思っている。
「理人ぉー、ちゅー」
「ちゅー、じゃないだろ!そういうのは葵さんにしろ!」
「えー、理人意地悪ぅー」
こんなやり取りを葵の知らない所でもやっているのだから末恐ろしい。
幸いにも飲み会の席には必ず理人が同席してくれるので最悪の事態は防げているのだが、今後は飲む量を控えさせるべきかもしれない。
本当は飲み会に参加するなと言いたいのだけれど、なんだか束縛しているようで気が引けてしまうのでなかなか言い出せない。
壮太にも付き合いというものがあるだろうから、だからこそ、飲み会は理人と必ず行くように、と約束はさせている。
「葵、手ぇ止まってるぞ」
「ええ?今日ペース早くない?」
飲み干すとすぐに酒を入れられて、飲むように促される。
平静を装ってはいるが、割とふわふわしてきている。
そこまで酒に強いわけではないのでこれは少しまずいかもしれない。
「酔わせたいからに決まってんだろ。奮発してお前の好きなやつ買ってきたんだからな、思う存分飲め。そして、酔え。酔ってしまえ」
「嫌だよ。もういいでしょ、壮太を見てよ」
壮太は既に理人に寄りかかって意識を飛ばしていた。
酔った姿を見たいという本人がこれでは意味がないだろう。
「大丈夫です。壮太は少し寝たら回復するんで」
「回復したら困るんだけど」
理人は自信満々にそう言って、壮太の頭を優しく撫でている。
ああ、本当に席を替わってほしい。
葵だって壮太の頭をナデナデしたい。
膝枕したい。
寝顔を間近で見たい。
理人が凄く羨ましい。
「葵、実は酔ってるだろ?」
「え?酔ってないよ?」
実際はふわふわしているけれど、壮太のように理性を飛ばすほどではない。
「ほんとかー?こうしてもかー?!」
「うわ、やめて!」
ぐわんぐわん、と揺さぶられ、思わず本気で停止を求めてしまった。
ああ、益々ふわふわしてしまった。
「もー、トイレ行ってくる」
そう言って立ち上がろうとすると、なんだか地に足がついていないような感覚に襲われた。
「葵?付き添おうか?」
「大丈夫だって、すぐそこなんだから」
と言いつつ、テーブルやら壁やらに手を置きながらの移動になってしまった。
ああ、飲まされてしまった。
ふわふわする。
気持ち悪さは全くない。
適量を飲んで、思惑通りに酔わされてしまったのだろう。
トイレを済ませ、お手洗いから出ると、リビングの方から壮太の声が聞こえてきた。
本当に復活してしまったらしい。
(壮太……)
どうして自分の隣を選んでくれなかったのだろう。
酒を飲むときは理人と、とは言っているけれど、今日は葵がいるのだから葵の隣でもいいはずだ。
葵には甘えられない理由でもあるのだろうか。
実は理人の方が好き、とか?
(いやいや、まさか)
ぶんぶんと首を横に振って嫌な考えを吹き飛ばそうとした。
だけど、一度思った負の思考はなかなか止まってくれなくて。
(壮太……)
葵はその場にうずくまり、はあ、と一つ溜息をついた。
(壮太、オレのこと、本当に好きなのかな……)
自信なんてもともとない。葵はもとより、自分が他人より優れているところなんて、見つけられないような人間だ。
それを、あたかも自信ありげに装っている。
余裕のある大人を演じている。
その方が人によく思われるし、こうして、壮太にも好意を持ってもらえたのだからそれは間違った選択ではないと思っている。
だけど。
(きつい……)
いつにも増して自信が出ないし、余裕もない。
なんだか今日は、ダメな日だ。
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