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中川壮太 3

潰れても寝れば復活できるという特性(?)を利用し、壮太はなんとか眠りから覚めることができた。 その時には葵はすでに離席していて、聞けばトイレに向かったという。 「トイレにしては遅くないですか?」 用を足すにしてもそこまで時間はとらないはずだ。 戻ってこない葵を心配していると、友治が首を傾げ、にやり、と笑った。 「飲みすぎで吐いてたりして」 「え、それ大変じゃないですか!見てきます!」 「中川くんは優しいなぁ」 優しいとか、そういう問題ではない。 嘔吐していたら一人でここまで戻ってこれないかもしれない。 葵に限ってそんなことはないとは思うが、万が一、ということがある。 席を立ち、壮太はリビングを出た。少し歩くと、トイレの前でうずくまっている葵を発見した。 嘔吐している様子はないのでまずは一安心だ。が。 「葵さん?」 様子がおかしい。 壮太の声に気付いた葵はゆっくりと顔を上げた。 涙が頬を伝っているように見える。 明かりをつけていないのではっきりとは見えないが、なんだか泣いているように見える。 「……葵、さん?」 葵の側に寄るや否や、ぐい、と腕を強く引っ張られ、吸い寄せられるように抱きしめられた。 葵のいい香りの中に仄かにアルコール臭が漂っている。 「壮太は、本当は理人くんの方が好きなんでしょ?」 「はい?」 なぜそんなことを言われるのか壮太には分からなかった。 葵はぎゅう、と力を込めて壮太をただただ抱きしめる。 痛いくらいだ。 「いつも理人くんの側を選ぶのは、理人くんのことが忘れられないからでしょ?理人くんのことが好きだからでしょ?オレのことなんて実は見ていないんでしょ?」 「ちょ、葵さん、待って待って、落ち着いてください」 酔っているのか素面なのか、いつも自信にあふれている葵が珍しく弱気になっている。 普段なら理人の隣にいたくらいではなんにも言ってこないし、むしろ三人でやろうか、なんて提案をしてくるくらいなのに、今日はなんだかいつもと違う。 「ここ、寒いのでとりあえず戻りましょう?」 「うん、壮太がそう言うなら戻る」 素面ではないな、と思った。 葵は完全に酔っていると思われる。 だが、泣き上戸というよりももっと厄介な仕上がりになってしまっている気がする。 葵の手を引いてリビングに戻ると、葵は座る前に壮太を抱き寄せ、問答無用でキスをした。 キスは日本酒の味がした。 「葵さん?!」 「壮太はオレのものってしっかりアピールしとかないと、理人くんに取られちゃうかもしれないだろ?」 「取りませんよ?!」 反論したのは理人だった。 豹変した葵を見て理人も驚いているようで、目を丸くして葵から目を離さない。 「え……?壮太、その人、本当に葵さん?」 「……葵さんだと思う」 別人過ぎて壮太も戸惑っている最中なので、理人への返事も少々自信のないものになってしまった。 友治だけは慣れている様子で、にやにや笑っていた。 「壮太がオレのことを一番に想っている証拠が欲しい」 「えええ?証拠って、どうやって示せばいいんですか……?」 葵は泣くどころか面倒くさいことまで言い始めた。 理人はただただぽかんとし、友治は笑いを堪えるのに必死な様子だった。 一番困っているのは壮太である。 無理難題を言われてしまい、どのように対応すれば正解なのかが分からない。 キスすれば認めてくれるだろうか。 それだけでは不十分だろうか。 だとしたら、どうすれば葵の言う証拠に繋がってくれるのだろうか。 ぐるぐる考えを巡らせてもいいアイディアは思い浮かばない。 「ほら、やっぱり理人くんが一番なんだ……」 「違いますよ!確かに理人は親友だし、大切な人ってことに変わりはないですが、心から愛しているのは葵さんだけです!信じてください!」 なんだか恥ずかしいことを言わされている気もするけれど、今はそんなことを考えている場合ではない。 葵を納得させなければ、どんどん悪い方向へ向かってしまう、そんな気がする。 だけど一向にいい考えは思い浮かばない。 葵は不安そうな目で壮太をじっと見てきて、何かを訴えている。 誰か助けてくれ、と心の中で叫びたかった。

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