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中川壮太 5
怒りとか、そういう感情は特になかった。
やけに冷静で、落ち着いている自分がいた。
ソファまでの距離を詰める際も、特に、何の感情も抱いてなくて。
「葵さん」
理人から遮るように葵の前に割って入り、両手でがしっと葵の顔をホールドし、そのまま葵にキスをした。
ようやく、葵の動きが止まった。
唇を離すと、壮太はそのまま力をこめて理人たちから葵を引き剥がし、葵を床に放った。
「食べられるのは、葵さんです」
その場で硬直したのは葵だけではなかった。
理人も友治も、見たことのない壮太を目の前にし、動けないでいるようだった。
「そ、……壮太?落ち着け?」
そう声をかけたのは理人だった。
壮太がキレていると思い、心配してくれているのだろう。
だが生憎、キレているわけではない。
壮太は至って冷静だ。冷静に、現状を分析しているのだ。
上体を起こした葵は、楽しそうに壮太を見上げている。
「オレを食べるって言った?面白いね」
「ちょ、無理だろ!壮太、お前、タチなんてやったことないだろ?てか、相手が悪すぎる!」
「そうだね、理人くんの言う通りだ」
でもね、と葵は立ち上がり、壮太の頬にキスをした。
「心意気はいいと思うよ。強気な壮太もレアだし、オレは嫌いじゃない」
でも、と壮太の首元にキスをしながら葵は意地悪な笑みを浮かべた。
「無理はしない方がいいよ。二人の前で泣かされたくないならね」
「先に泣き言言うのはきっと、葵さんですよ」
「それは楽しみだね」
そう言うと、葵は寝室の方へ向かった。ここで始められるか内心びくびくしていたけれど、回避できたようだ。
「そ、壮太……」
心配そうに理人が声をかけてきた。振り返って、壮太はにこっと笑顔を返した。
「大丈夫。ちょっと、行ってくるね」
今の葵の暴走を止められるのは壮太しかいないだろう。正直、あの葵に勝てるかどうかは賭けになるが、やるしかない。
寝室に入ると、葵がネクタイを外してベッドに腰掛けて待っていた。近づくとすぐに抱き寄せられて、甘ったるいキスをされて。
壮太の体の力が抜けるのを待っていたのだろう、押し倒されて、ベッドにネクタイで両手を括り付けられ、拘束された。後ろに結んでいた髪を解いた葵の表情を見るだけでぞくぞく、としてしまう。
「ようやくオレだけを見てくれましたね」
壮太は葵から視線を逸らさずに、真っ直ぐに見て葵に言った。
「早く、犯してください」
「……そんな風に煽っていいの?」
壮太のズボンのベルトを手際よく外し、簡単に脱がしてしまった。
「いつもは気持ち良くなってほしいから、壮太の様子を見ながら進めてるんだけど、」
壮太のペニスに刺激を与えながら、葵は口角を上げた。
「今日は手加減してあげないよ?」
「あっ、ぅ……」
大丈夫、絶対に今日は負けない。泣き言なんて口にしない。
「手加減なんて要らないです。優しさなんて要らないから、オレのこと、ぐっちゃぐちゃにしてください」
できればですけど、と付け加えて煽ってみたけど、さすがにやり過ぎてしまった気がした。
「三十分後に正気でいられるといいね」
あ、やばい、無理かも。
理人、山下さん、無理だったらごめんなさい……!
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