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立花理人 10
時間が刻一刻と過ぎていく。
壮太は無事だろうか。
やられすぎてベッドから起き上がれず、逃げ出すことができない状態で追い討ちをかけられていたらどうしよう。
ドエムの壮太でも流石に限度があるだろう。
だけど、恋人同士のそういう空間に割って入るのは流石に気が引けるので突入することはできない。
理人にできることといえば、ここで壮太の無事を祈ることくらいだろう。
「足音?」
確かに今、音が聞こえた。
友治も理人から離れ、その方向へ視線を向けた。
どっちだ?壮太か、葵か。
頼む、壮太であってくれーーー!
「お待たせ」
そう言ってリビングに顔を出したのは、壮太だった。
裸に葵のワイシャツを一枚羽織っているだけの格好で、とても無事であるとは言い難いが、どうやら壮太は宣言通り、葵に勝つことができたらしい。
「壮太ぁ!」
理人は慌てて壮太に駆け寄る。
壮太はその場で座り込み、へへへ、と笑みを浮かべている。
体中、キスマークだらけ。
手首に何か痕が残っているから拘束でもされていたのだろう。
太ももには白濁色の液体がたらり、と伝っていて、生々しい情事のあとを容易に連想させた。
「ごめん、立てない」
「とりあえず、シャワーいくか?介抱するから」
「んー、足腰ががくがくしてて、無理かも」
そう言って、壮太は理人に体を預けた。
何故に葵のワイシャツを着ているのか、とか、葵はどうしたのか、とか、色々聞きたいことはあるけれど。
「その格好は目のやり場に困る」
「ははは……我慢して?」
葵はまだ寝室から出てこない。
一体これはどういう状況なのだろうか。
ソワソワしていると、友治が壮太に声をかけた。
「葵は?」
「寝てます。なので、安心してください」
「そっか。よく生きて帰ってこれたな」
同感だ。理人は思わずうんうんと頷いた。
「まあ、相手は酔っ払いだったので。素面だったら無理でした」
その酔っ払いに一撃ケーオーを食らってしまった理人は何も言えず、ただただ、壮太、すごいな、と尊敬の眼差しを送った。
「そんなに長くは寝ないと思います」
「起きたらとりあえず水飲まそう。水」
何だろう、最初は軽いノリだったはずなのに、なんだかすごく疲れてしまった。
壮太にとっては恋人の知らない一面を知る機会にもなったし、良かったのは良かったのかもしれないが、きっとこれだけは共通して言えるだろう。
「壮太、葵さんに日本酒は禁止しといてな。友治さんも、飲み会とかで、ぜーったい、日本酒飲まないように監視しといてくださいね!」
理人のこのお願いに、壮太も友治も、力強く頷いた。
もう二度と、あんな夜の帝王みたいな人格を呼び起こしてはならない。
今回は壮太が仕留めてくれたが次にどうなるかなんて分からない。
葵が目を覚ましたのは、丁度、後片付けを終え、ひと段落した頃だった。
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