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山下友治 11

魔性だと、今思い出しても思う。あんな誘惑、打ち勝つ方がまず無理だ。 ははは、と理人は引き攣りながら笑っている。 「さすが葵さん。最初から勝ち目ないな」 「それだよ。今冷静に考えたら、オレが優位になってたことなんて一回もないんだよ」 気付けばあいつの敬語、いつの間にか消えてるし、と今思えば気付く色々なことがある。 葵はどちらでも良かったのだろう。 ネコだろうが、タチだろうが、自分が主導権を握る自信があったのだ。 「熟練すぎるんだよ、おかしいだろ、あいつの方が歳下だぞ?社会人歴だってオレの方が長いのに……」 「それを言い始めたら、オレより壮太の方が男を誘惑するのは上手いし、……つまり、そういうことでしょう」 「なんでオレの話が出るの?」 つまりは、生きている年数が必ずしもそういう経験値には直結しないということだ。 葵がどんな人生を歩んできたのかは知らないし、正直知りたくもないが、友治よりも色々な経験をしているのは間違いないだろう。 「あいつ、なんで薬剤師してんの?ホストとかさ、なんか、そっち系の方が天職だろ。あいつの接客スペースだけ、なんか違うんだよ。背景に花が見える」 思わず愚痴ってしまったけれど、二人は「ああ、……」となんとなく理解してくれたようだ。 「で、続きは?」 「えっ」 壮太に続きを急かされてしまった。 この先の話は自分が無様なだけなのでできればお蔵入りにしておきたい。 黙って誤魔化そうとすると、理人は不機嫌そうな表情を見せた。 「続き聞かせてくれないなら、今日はオレに触るの禁止で」 「うそだろ?」 まさかそうくるとは思わなかった。 こんなに近くにいるのに触れないなんて、そんな酷い話があるだろうか。 「……え?冗談だよな?」 「本気ですけど」 話を続けるか、それとも理人に触るのを我慢するか。 選択肢は、二つに一つ。 「……話せばいいんだろ?はぁ……」 欲には抗えそうにないため、ここは観念することにした。 男を相手にするのは初めてだったが、不思議と戸惑うことはなかった。 酔っているからか、それとも元々なのか、少し刺激するだけで葵の甘い声が聞こえてくる。 我慢しているのだろうか、その声は小さいけれど、あまりにも色っぽいその声に、自身が反応していることは自分が一番よく分かった。 暑いのかもどかしいのか、葵は自ら片手でボタンを外し、ねえ、と友治を見上げてくる。 無駄のない体つきで、筋肉質ではないけれど、とても綺麗で、すぐにでもその体を汚してしまいたいと思ってしまう。 「ベッド、使ってもいい?」 相手は男だ。 昼まで一緒に働いていた同僚で、後輩で。 欲情する理由なんてどこにもないはずなのに、体はどこまでも欲求に素直だった。 気付けば葵をベッドに抱え、その口を塞いでしまっていた。 「男を相手にするの、初めてなんだけどさ」 葵のズボンを脱がし、後孔にそっと触れた。 そこは、未知の領域だった。 「合ってる?」 「正解」 気付けば葵の虜になっていた。

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