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第3話

「ホットコーヒー、ひとつ」  耳をくすぐる低い美声を噛み締めながら、今日も今日とて本庄は営業スマイルで深夜の珍客の対応をする。 「はい、ホットコーヒーですね。サイズは――」 「レギュラー」  いつも思うのだが、スキンヘッドに仕立ての良さそうな黒スーツに身を包みまるで葬式スタイルのこの男。よくよく注意して見れば少しずつ変化のあるサングラスに、オシャレでないわけではないらしいことは知らされる。  なぜスーツやネクタイは変わらない?  コレが制服なのか、もしくは戦闘服とやらか。  くだらないことを考えながら、紙コップを渡しついでに近くに置いてあった袋を男に差し出す。 「コレは?」 「この前は助けていただいて、ありがとうございました。安いですが感謝のシルシで」  たとえ、目の前の男がオニィオネェさんに投げつけた本が売り物にならなくて、自主的に本庄が買い取ったとしても恩は恩だ。常日頃から、お礼はせねばならないと叩き込まれている。 「……コレは」  袋の中身を覗いて固まる姿を眺めながら、違ったかなと内心首を傾げる。 「甘いもの好きだと思ったんですが、違いました?」 「……ナゼ」 「いつも見てくじゃないですか、デザートコーナー」  一瞥だけど。お買い上げは一度もしたことないけど。というか、彼が過去このコンビニで購入したのは、ドリップコーヒーとおつかいの煙草だけである。  ひとまずお勧めのプリンと団子を入れてみた。団子は普段の逆バージョンでみたらしが中に入っているタイプなので手も汚れない仕様だから、ドコで食べても大丈夫なはず。しかも甘さ控えめなので、たとえ初心者だったとしてもイけるはず。 「ただの気持ちですんで、不要だったら横流しするなり処分してください」 「いや、ありがたく頂こう」  まさか相手から謙譲語が出てくるとは思わず、本庄は眼を丸くする。しかもいつも引き締められている口元が緩められているような気がしたのは見間違いか、自分の希望的観測か。  社交辞令だろうなと思いながらも、やっぱりうれしい。 「ありがとうございましたー」 本庄は扉を潜る背に声を掛けた。

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