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第4話
注文を受け、タッチパネルで商品を探しながら今さらながらに本庄は提案した。
「よくご来店されますが、電子マネーは考えていませんか?」
「……」
口を閉ざした珍客は今日も真っ黒な隙の無いスーツにスキンヘッド、表情の見えないサングラスの出で立ち。
そう、この男は毎回ワンコイン出して購入しているのだ。こちらとしては金さえ払ってくれれば何も言う事はないのだが。
「今月いっぱいまでキャンペーンですので、もしも気が向いたら店員に声掛けてください。手続きは簡単ですので」
今回の特典が一番いい。
「今でもできるのか」
「ええ。ココに記入してもらって、それから――」
まさか前向きな返答があるとは思わず、内心驚きつつ説明しながらパンフレットを手渡す。ザッと内容を確認してから発せられる耳に馴染んだ声に、本庄は今度こそ眼を丸くする。
「頼む」
「ッえ? あ、それではココの記載をお願いします」
胸ポケットのボールペンを引っ張り出して手渡せば、流れるように思いの外達筆な字が綴られる。
信楽(しがらき)。だから、しーちゃんか。
先日来店した賑やかなオニィオネェさんがこの男を示した由来が判明。ちなみに、男から渡された番号は一応アドレス登録しているがさすがに『名無しのゴンベイ』とする訳にもいかず、実はこっそりと『しーちゃん』となっていたりするのは本庄だけの秘密だ。
個人情報のため、極力手元を見ないようにしていたが彼の手が止まった。職業の欄。レ点チェックをすればいいだけの話であるが、やはり公にはできない職業なのか。一瞬迷ったらしいが結局『その他』に印がついた。予想通りといえばそれまでである。
ヒュユン。
初? 電子マネーでのお買い物でまじまじとカードを眺めながら去っていく珍客の背に今日も本庄は声を掛ける。
「ありがとうございますー」
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