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第6話
「ホットコーヒー、ひとつ」
今日も耳をくすぐる低い美声。
「はい、ホットコーヒーですね。サイズは――」
「何だ、その指」
指?
深夜のコンビニで本庄は早くもテンプレから外れた疑問に首をかしげた。
「ああ、見苦しくて申し訳ありません。昼間授業でナベをひっくり返しまして」
現在はそれほど痛くないが、水ぶくれができている。
「学生か」
「ええ、菓子作っています」
「……専門学生か」
「俺の事いくつだと思っていました?」
やや呆れながらも、手はタッチパネルの商品を探して紙コップを差し出す。何故か幼い印象を与えるらしい自分の顔は母譲りだ。身長は標準なのに。
「バイトしているから高校生以上だとは思っていた」
うれしくない判断だ。しかも消去法に近い。
「お客さんほど年齢不詳じゃありませんって」
半目になりながら反論してハタと気付く。
いつも以上に踏み込んでいる。
同僚の妄想曰く、対応を間違えるとマグロ漁船に借り出されるだの、臓器売買されるだの、シャブやヤク漬けにされるだの、散々な言われような彼である。本庄も基本的に人に突っ込んで聞くほうではないので、気分を害していないかとコッソリと視線を上げるも、やはりサングラスに隠れて素顔は判別できない。
「お大事に」
掌に乗せられたアメに混乱を極めた本庄だった。
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