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第8話

「ねー、おにぃーさん。イイコトして遊ぼうよー」 「仕事中ですので。――いらっしゃいませー」  時々本庄はこの手の、嫌がらせ染みた誘いが掛けられる。綺麗なお姉さんならばまだしも、男に。何故だ。しかも制服を着ており、近くの高校の生徒であることを知らされる。こんな深夜にどこをほっつき歩いているのだ。補導されるぞ。  レジに居座る金髪長身のお兄さんを半ば無視しながら、来店を知らせるベルと共に客に声を掛ける。  あ、と思ったら遅かった。 「何時上がり?」  いつの間にか手を取られ、視線を合わされる。  ゴッ! 「ッてぇ! ゲッ、信楽(しがらき)!」  危機を救ってくれたヒーローは、またしても黒尽くめのスキンヘッドの珍客でした。今回は雑誌でなく缶の健胃薬だったけど。一段と凶器が上がった。  オニィオネェさんから高校生まで、ずいぶん幅広い知り合いだな。  後輩に言わせると、取立てして顔が広いからという見解になるのだが、本庄から見るとどちらも互いに手加減なく言い合っているような気がするので上下関係はなさそうなのだが。どちらにしろ詮索は無用。 「ホットコーヒー、レギュラー」 「はい、ホットのレギュラーひとつですね」 「それとコレを」  先ほど投げつけた缶を差し出しながら、逃げ出そうとする金髪の首根っこを捕まえている。器用な人だ。 「てめぇ、ここンとこツラァ出してねぇだろ」  羽交い絞めにしたイタイケな高校生のピアスだらけの耳元で凄む姿は、端から見たら脅しのよう。  やっぱり解らない男。 引き摺られていく制服を憐れに思いながら、本庄は心の中で手を合わせた。

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