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第9話
「あっらー? えっちゃん、まだこんな所でもバイトしているの? 身体壊しちゃうわよ」
「……いらっしゃいませぇ。」
いつも通り黒尽くめの珍客は、雑誌コーナーを通り過ぎドリンクコーナーに差し掛かりデザートコーナーを一瞥しようかという時に、背後からピンヒールを響かせたオニィオネェさんに抱きつかれて、溜め息をつきつつ短いルートでレジにお越しなさった。
「……いつから親しくなった」
ドリップコーヒーを注文した後、張り付いている一見美人な脚線美のおねぇさんを振り返りながら、しーちゃんさんは低い声をさらに低くする。
かなりどうでもいいが、この二人実は仲いいな。
年齢も性格も職業も? 何もかもが違いそうなのに。
「えっちゃん、ウチのお店でも働いてるのよ。ねぇー?」
……えっちゃん。
「えっちゃん?」
同じことを思ったのか、スキンヘッドの珍客は腹に来るほどの低い美声で復唱する。
「名前、得智 よね」
「ええ。お世話になっています」
かわいらしく小首を傾げる店の経営者に、本庄は内心溜め息をつきつつ顎を引いた。そう、先日からホールでお世話になっている。ソコに比べて大幅に時給が安いココを辞めていないのは、長年お世話になって抜けにくいのと、手を焼く犬のようなデカイ後輩が居るからである。シフトは以前に比べて減らしてもらったが。
「……お前、脅迫してないだろうな」
「あン、人聞き悪い。しーちゃんじゃあるまいし」
「俺はやらん」
どこからどこまでが本気なのか解らない彼らの掛け合い漫才のような問答を聞きながら、本庄は男に紙コップとレシートを渡す。
「ありがとうございますー」
ここのバイトなくしたら、この人たちのやり取り見るのが減るのだと思うとちょっと残念なのは絆されているのか。
辿り着いた思考に軽く頭を振った本庄は、同僚を呼ぶ為にスタッフ呼び出しボタンを押した。
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