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第3話

俺は初めて、「生徒会長」の権力を仕事以外に濫用した。 それは、確かな下心からだった。 対面式以来、齊藤河南が頭から離れないでいたのだ。 これは俗にいう「一目惚れ」ではないかと懸念し始めたときには遅かった。 いつもなら、片手間でも三船の返事をするが、最近はからっきし意思疏通がうまくいっていない上、他校からの生徒会訪問でも、資料作成のミスが続くなど、ストレスの溜まりっぱなしでどうにかなりそうだった。 頭を抱えたくなるような日常。 通りすがる一般生徒からは羨望の眼差しが絶えず、俺は「完全無欠の男」として有名らしかった。 ただ、もう一人、有名になったヤツがいたらしい。 それは、齊藤河南だ。 あの対面式で純粋無垢なイメージを植え付け、小さくそれでいて飾り気のない素朴な印象から、一躍有名人に躍り出てきたと三船から聞いた。 三船は仕事も早ければ情報網は、井戸端会議を好む中年主婦よりも長けている。 男子校だからというのもなんだが、同性愛には偏見がない。 つまり、俺も一概には言えず偏見がない。 それは、三船も同じこと。 それが意味するのは、有名になった齊藤河南は「狙われやすい」という結果に至るわけだ。 とすると、俺だけが真正面であの朗らかな笑み見たというのに、いずれ来るだろう男の恋人とやらにそれを独占されるというのだ。 実に我慢ならない。 沸々とわき起こってくるこの感情は、もう、「一目惚れ」を否定するのには根拠のない感情だった。 俺が行動型でよかった。 一度も試したことがなく、一度はしてみたかった権力の濫用。 俺だって、煩悩のひとつやふたつくらいあるというものだ。 三船に黙って事を進めても、敵に回しても、面倒なのでいっそのこと取り込んでしまおうと、俺の胸中を明かし、濫用に及んだ。

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