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第9話side齊藤河南

内容は実に僕に都合の良い話だった。 「生徒会長補佐」。 なんて響きの良い役職なんだろう。 それに、半強制的に名前を呼ばせた泉先輩! もうカッコ良すぎじゃないですか! 先輩の広い胸に今にでも飛び付きたいです! そして僕にだけ甘い言葉を囁いて欲しい! あの重低音で芯を震撼させるような色気の含(はら)んだ声で! しかも、昼休みに仕事をするからと、転々とする生徒会室というのも実に良い。 同性愛で苦しむ僕たちは、偏見のない地を求めて転々とし、虐げられては愛を深め、邪魔者扱いされては、絆を深めて。 僕たちは永遠の愛を貫きながら、二人で生きていく。 という、そんな妄想話が一話、簡単に出来てしまう。 そこで僕は、失態を犯した。 なぜ校舎の隅から隅まで地図を丸暗記してしまったのだろう。 魂胆としては、二人きりになれる穴場を探るためだったけど、こういう幸運でイレギュラーな事態に陥るなんて思ってもみなかったから、本当に大誤算。 これでは迷うことなく図書室まで辿り着けてしまうじゃないか! 迷って泣き真似でもすれば、大抵の人は助けてくれるし、気にもかけてくれるのに! 今やそんな猫だましのような小細工は無効ということなのか! 僕は、それでも考えた。 故意に迷ってしまえば、どうだろう? 泉先輩は、図書室から足を踏み出すだろうか。 来なければ、忘れたのだろう、などと滅相もないことを思うのだろうか。 僕は昼休み、迷子になります。

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