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第16話side齊藤河南

三船先輩が髭ちょこたちを引っ張っていった後、図書室に残された僕と泉先輩。 「はぁぁ。ゴメンな、もうちょっと早けりゃ、間に合ってた」 「成り行き……というか身体もまさぐってすまん」と小声で謝る泉先輩。 僕はそんな謝罪より早くに、お礼を言わなきゃいけなかった。 泉先輩の首に腕を絡め、半ば半べそかきながら「ありがとう……ございます……本当に、間に合わなかっ……ひぐっ……たら」と声にもならない音で感謝を表す。 「……。でも、お前の身体、クサイ……むしゃくしゃするほどクサイ」 「す、すす、すみません……」 「アイツらには舐められただけか?」 優しく問う泉先輩に自然と口が開く。 安心感の表れだ。 「はい……大丈夫です」 「じゃあクサイのは洗えばなんとかなるか……だが、これからこんなことがしょっちゅう起きないとも限らない。齊藤」 「はい……」 僕の出した白濁をちり紙で拭きながら、何でもないように「やっぱり生徒会長補佐はいらない」と言い放った。 バレーボールで例えるなら、断崖絶壁のブロックに、自分の打ったスパイクがドシャッと潰され、コートに叩き付けられた時の絶望感に似ている。 先行きが見えない失望とも言い換えられる泉先輩の言葉は、僕の頭を真っ白にさせた。 故意ではなかったけど、泉先輩が僕の身体を見て、何かを思ったのかな。 違うな。 男が男に襲われ、何も出来ないで喚くしかしてない弱さを滑稽だと思ったんだ。 完全無欠な生徒会長は、きっと、なんでもできて当たり前。 僕が近付こうとしたことを、暗に拒絶してる。 一旦自分から引き寄せといて、現実を見せ付けるために。 だから、ふりで髭ちょこたちに荷担したとき、舐めるように僕の身体を見ていたんだ__。 「ハハハ、すみません泉先輩。お見苦しいとこ見せてしまって」 「それは別に構わん」 それは、これからは関わることがもうないから? 「ほら、制服……はシャツが破けてるな。ったく、新品の制服をなぜに粗末にしやがった。アイツら本物の腐れ外道だな」 そうぶつぶつ言いながらもスラックスだけは履かせてくれて、優しさが僕の心に突き刺さる。 完全に拒否してくれたら、スッパリ諦めきれるのに。 でも、泉先輩は優しい。 だからそれに甘えず、今回の短い恋は玉砕、ということで、終わらせよう。 数週間で恋が終わるなんて、初めてだよ。 一目惚れはよくないな、うん。 「齊藤、上は俺の体操服を貸してやるから、一緒に二年の教室に行くぞ」 「い、いえ、結構です!では、失礼しました」 「ちょ、待て!」 抱き抱えようとした泉先輩の腕を渾身の力を込めて、突っぱねた。 髭ちょこの時にも、恐怖に負けずこうしてたら、ちょっとは逃げる隙が生まれたんじゃないかな、とか考えてしまってこんなのは後の祭りだ。 シャツを胸の辺りで抱え、ブレザーの上着を肩に羽織ったまま駆け出した。 ちゃんと、今、泉先輩を追いかけるのを、やめた。

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