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第17話side齊藤河南
僕は、走った。
無駄に叩き込まれた校舎内の地図を、頭に思い浮かべながら、ただひたすら、完全に一人になれる場所を求めて走った。
数週間の恋だったけど、それなりに毎日充実していた。
二人きりになれる穴場のために丸暗記した校舎内。
そんな今や不必要な知識ばかりが、僕を苦しめる。
数週間だったけど。
「はぁ、はぁ……っぅふ……ぐす……っはぁ」
泣くか酸欠になるかどっちかしないと、過呼吸になる勢いだ。
数週間だったけど、大好きだった。
体力も然程続かず、酸欠に近くなりながらも僕は、とりあえず図書室、つまりは二、三年生の教室がある校舎からはなれるべく、一年の校舎へと繋がる唯一の廊下で曲がる。
その頃には、ヘトヘトで大したスピードはでなかった。
言うなら、悲しい気持ちだけが先走って、足を突き動かしていたようなものだ。
僕は、やっとその唯一の廊下を渡りきって、止まろうと元から減速していたスピードを更に緩めた。
その瞬間、何か壁にでもぶつかったんじゃないか、僕は、正面衝突でお下品にも「ブフッ」と音を出す。
あ、決しておならとかではないからね。
壁が「うぉ、なんだ?おー、わりぃな!」と喋るもんだから、何でだろう、そう思ってから人だと分かるまで、その間零コンマ二秒。
でも、顔は上げられなかった。
温かな匂いに包まれて、安心してしまったのだ。
誰か分からない人よ。
ごめんね。
僕は、酸欠と進学早々の失恋で疲れているんだ。
加えて襲われそうにもなったんだ。
ちょっとだけ、休ませて。
僕は、そこで意識の外に追い出された。
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