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第18話side櫻田勇也

東高校に入学して早数週間が経った。 徒歩で通える距離という安直な理由で進学先を「男子校」と決めたわけだが。 俺はエントランスから靴箱に革靴をいれ、上履きを取り出す。 これだけの行動がとても億劫に感じ始めた。 なぜって? そんなの……。 革靴を脱ぎ、靴箱を開ける。 すると、所狭しと詰められていた便箋やらメモ紙がバサバサと音をたてて落下していく。 最近では朝イチでこれのオンパレードだ。 ここは共学ではない「男子校」だ。 試しに一枚、中身を初めて見たときは、悪寒が走った。 『櫻田勇也君へ 中学の頃から試合の度に追っかけしてました! それで、僕、東高校まで憧れと好意を抱き追いかけてきました! 好きなんです!三年間片想いしてきたんです! 東高校(ここ)は同性同士の恋愛にはとても寛容だと噂を聞き、つい、告白の言葉をしたためた所存です! 返事くれると嬉しいです』 自分の名前を名乗らない辺り、不審がるに決まってる。 ただ、おおよその目星はついてしまっているから、俺も強い。 確かに「追っかけ」と言われると、一人、気になる人物がいた。 と言っても、何でこの人が?と問いたくなるほど、気さくなイメージと整った顔が印象的だった。 俺は中学校から始めたバレーボール。 もともと運動神経には自信もあって、そのお陰でルールと基礎を叩き込んだ四月を除いてからは、レギュラーを一回たりとも譲らなかった。 その試合を三年間、個人的に観戦してくれたとなると、やはり、あの人しか思い浮かばない。 とりわけ関わりがあったわけでもないが、何か、毎回いるな、の程度。 俺にはさっぱり理解できない恋心だというわけだ。 だって、向こうもモテそうな面してたんだぜ? あ、「も」て言っちまった。 てなわけで、手紙から読み取れる「同い年」のその人に、これから直接断りを言いに行ってやる。 三年間最後まで俺の勇姿を見届けてくれた人でもあるからな。 誠意をもって話そうとは思うんだ。 だって、そう言うところから、でしょ? 他人に好感度を上げたり、バレーに対する情熱も。 礼に始まり礼に終わり、てな。 んで、結局ソイツは、俺のクラスにいて、しかも俺の隣の席だっていうからびっくりもんだ。 それと、いいヤツでもあった。 恋文(ラブレター)に名前を書かなかったのは、同じクラスで、隣にいるヤツだと気付かれたら、それはそれで気まずいと思ったらしい。 「だったらなんで返事求めた!」自然と突っ込んでしまったから、俺たちは笑って「確かに」なんて言ってた。 まぁ、そのあときちんと断りは入れておいた。 向こうも理解ある人だったし、これから仲良くなれるかな、なんて思っちゃったり。 その帰りだったんだよ。 あられもない姿で俺に突進してきた少年。 高校でもバレーボールをするつもりで、先輩たちのいる反対校舎に行く途中だった。 反対校舎からもたもたと走ってきて、俺と衝突までとはいかない緩いぶつかり。 俺は曲がってきたその人をよく見ることができず、小さいヤツにとにかく謝った。 がたいがいいと、小さいものに弱くなる。 分かるか、この気持ち。 しかも「わりぃな」と謝ったらふっ、と意識飛ばされんだもん、マジでビビる。 「おい、おい!え、大丈夫かよ、おい!」 俺に体重を預け、力泣く倒れていくその人をゆっくりと抱き上げ、顔色を確認する。 部活で培ってきたのは、何も筋肉や礼儀、技術だけじゃないからな。 応急措置くらいはできんだからな。 髪の毛を後ろに流し、顔が露になる。 どくん、と跳ねる心音。 え、待って。 素朴な印象を与えておきながら、なぜか上半身裸でブレザーを羽織るその人に、色欲にそそられる。 言ってしまうなら、「欲情」だ。 欲情したんだ。 どくん、また鼓動が大きく跳ねる。 やめてくれよ。 俺、さっき男からの告白を断ってきたばっかだぜ? どくん、俺の意思とは無関係に高鳴る鼓動。 恥ずかしいくらい動揺しているが、今は昼休み、人通りもそこそこある。 俺は色んな感情を引っ込めて、保健室へ駆け出した。

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