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第20話
齊藤河南は俺の腕の中からすり抜け、走り去った。
なんとも呆気なく俺の側から居なくなりやがった。
綺麗な花をたおっていいのは俺だけ。
むしっていいのも、可愛がっていいのも。
俺だけのはずだ。
沸々と沸き起こる憤悶とした感情を露にし、椅子を蹴飛ばす。
だが、平静をすぐに取り戻すと、口角がニヤリと上がる。
少し自制心を欠いてしまい、齊藤の身体を弄ってしまったとき。
齊藤は頬を赤く染め、歓喜に満ちたような顔をした。
下衆の奴等に犯されるくらいなら、という考えも過らないではないが、アイツは俺が触るといい声で啼いた。
少なくとも俺に悪い感情は抱いていない。
「ククッ……なぁ齊藤……生徒会長補佐は要らないって言ったときのお前の表情……スッゲェ……そそられる顔してたんだぜ……お前を俺の手元からそう簡単に手放すとでも思ったのか?それならとんだ愚鈍だ。ククッ……あぁ、明日が楽しみだなぁ」俺は下卑た笑いともとれるようなほくそ笑みを溢した。
テーブルの上に乗ったまま、俺は片ひざを曲げある石像の「考える人」を連想させるポーズをとる。
「泉、アイツらは退学処分で処理しといた」
「ああ、助かる」
「それにしてもまだ、不良がこの学校に存在したとはな。髭に金髪……風紀委員に徹底を呼び掛けるか」
「三船。齊藤河南を生徒会長補佐から降りさせたから」
三船は一瞬だけ驚いて目を見開いて見せたが、すぐに表情を隠し、「教員の許可まで取ってたんだぞ」と軽く嘆息をつく。
「齊藤が俺から逃げた。こんな目に毎回逢わないとも限らないから、補佐役は要らないって言ったら、目に涙浮かべて走り去った」
「お前、掌中で転がして楽しんでるだろ。好きなヤツくらいまともに接しろ」
「可愛がってるだけさ。どうせ、俺の手元から離れるなんてそんなあり得ないこと、許さないから」
薄い笑いを浮かべながら、明日はどういう方法で齊藤と関わるかを考えていた。
この時の俺は、齊藤河南の潔さを、侮っていたのかもしれない。
俺が花を摘み取る前に、他の俺ではない誰かがその花を千切って横取りをするなど、言語道断だ。
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